翌日…―。
窓から入ってきた朝日で、気持ちのいい目覚めを迎えた。
すると部屋の扉がノックされて……
映画スタッフ「おはようございます、○○さん、朝食の準備が整っております。それからウィル監督から言伝を預かっています」
○○「ウィルさんから?」
映画スタッフ「はい、しばらくは監督は忙しい日々が続くので○○さんには自由に撮影所や街を見学して過ごしていて欲しいと」
○○「はい、ありがとうございます」
スタッフの人が去っていった部屋で、窓の外を見る。
(ウィルさんのいるケナルの街……少し見に行ってみようかな)
私は身支度を済ませると、街へと探索に出た。
…
……
初めて一人でケナルの街を歩く。
映画のCMの流れる街頭ビジョンに、様々な店の立ち並ぶ都会的な通り。
(実際に歩いてみると、懐かしいというか、元々いた世界みたい……)
一見映画のセットのような街の中にも、普通に過ごす人々がたくさんいる。
(活気があって、それに治安もよくて居心地がいい)
ふと大通りの本屋に立ち寄ってみれば…―。
(あ、この雑誌、ウィルさんが表紙になってる)
他にも様々な雑誌にウィルさんの新作を楽しみにする記事が掲載されている。
(こんなに待ち望まれてるウィルさんの映画……怖いけど……でもやっぱりちゃんと見てみたいな)
ウィル「明日からちょっと最後の仕上げで構ってあげられなくなるけど……君のためにいいものを用意してるから、楽しみに待っててね」
昨夜別れた時の言葉を思い出しながら、ウィルさんのことが書かれた雑誌を捲る。
○○「……」
(ウィルさん、今頃どんな気持ちで映画に向かってるのかな……)
なぜだか無性に彼のことが気になって、私は気づくと本屋を出てスタジオへと足を運んでいた…―。
撮影スタジオに戻ると、今朝部屋にやってきたスタッフの姿を見かけた。
○○「あの……今、ウィル監督に、お会いすることは可能ですか?」
スタッフ「はい、少しなら大丈夫かと」
その言葉に、私は彼のいる編集スタジオへと向かった。
ウィル「あれ、どうしたの?」
スタジオに入るなり、私の姿を見かけてウィルさんが近寄ってくる。
○○「あの、」これ……差し入れです!お昼、まだかと思ったので」
撮影所に来る途中、美味しそうな屋台でみかけたホットサンドの包みを差し出す。
ウィル「……! 驚いた。これ39ストリートの屋台のじゃないか。僕の大好物なんだ!」
○○「そうだったんですか?」
ウィル「うん! 嬉しいなあ……これで午後も頑張れそうだよ、○○、ありがとう!」
ウィルさんの顔に嬉しそうな笑顔が広がる。
○○「頑張ってください、映画楽しみにしてます」
そう笑いかけると……
ウィル「……」
眼鏡越しに、ウィルさんの瞳がまじまじと私を見つめている。
○○「ウィルさん?」
ウィル「あ、いや。確かに僕の世界は、人の怯えた顔を中心に回っているとは思うんだけど」
○○「?」
話の要点がつかめず、首を傾げていると……
ウィル「君の笑顔も、たぶん僕の世界を動かすに値するものなのかもしれない」
照れくさそうに眼鏡を押し上げるウィルさんの言葉に、胸に温かい気持ちが込み上げる。
○○「私もホラーは苦手ですけど、ウィルさんの作る映画はとても楽しみです。」
ウィル「……○○」
そして、私達はお互いに笑い合ったのだった…―。