第5話 晩餐会の後で

そして迎えた、晩餐会の日…-。

ミリオン「来賓に挨拶しないと。〇〇も一緒に来て?」

ミリオンくんは片時も私を傍から離さず、各国の来賓と歓談を続けた。

大臣「ミリオン様の華々しいご活躍は、世界に轟いておりますよ」

ミリオン「ありがとうございます。このトロイメアの姫君に救われていなければ、どうなっていたことか……」

そう言いながら、ミリオンくんは私の腰へ親しげに腕を回す。

(えっ、ミリオンくん……?)

大臣「ほう……我が国よりも、先にトロイメアと協定をお考えで……?」

その時だった。

女性「ミリオン様……!」

他国の姫と思わしき女性が、わなわなと震えながらミリオンくんを睨みつけていた。

ミリオン「……」

女性「ひどいですわ……この間は、私だけだと仰っていたのに」

女性はこちらまで歩いてきて、私に鋭い視線を向けた。

女性「トロイメアの姫君ですって? 立場を利用し、ミリオン様に取り入ろうとしているのではなくて?」

〇〇「そんな…-」

すると、ミリオンくんが私と女性の間に立ちはだかった。

ミリオン「……これはこれは、ようこそ起こし下さいました」

ミリオンくんは女性の手を取り、そっと指先に口付ける。

ミリオン「……後でゆっくりお話しましょう?」

ミリオンくんに甘い笑みを向けられると、女性は黙って頷き、その場を立ち去った。

(今のは……?)

突然のことに呆然としていると、ミリオンくんが笑顔で私に向き直った。

ミリオン「さあ、〇〇。壇上で皆さんにご挨拶しようか」

(大丈夫なのかな……?)

彼女のことが気になりつつも、私はミリオンくんに促され壇上へと足を踏み出した…-。

……

晩餐会の後、私はミリオンくんの執務室を訪れた。

(借りていたネックレス、早く返さないと)

執務室の前に立つと、扉が僅かに開いていることに気づいた。

ミリオン「――至急、トゥラム国への書状を出せ」

部屋の中から、ミリオンくんが従者に指示を出す声が漏れ聞こえてくる。

ミリオン「トゥラム国の姫が晩餐会で無礼を働き、トロイメアの姫が著しく名誉を傷つけられた。 よって、我が国から賠償金の請求を……」

(え……?)

ミリオン「ああ。後……メスキナ国の大臣は僕のことをいたくお気に召している。 これに乗じて自由貿易協定を反故とし、関税を引き上げても問題ない」

書類に目を落としたまま、ミリオンくんが冷たく言い放つ。

(どういうこと……?)

ミリオン「……そこに誰かいるのか」

(あっ……)

私はゆっくりとドアを開け、姿を見せる。

ミリオン「〇〇……」

ミリオンくんは私を見つめ、訝しげに目を細めた。

ミリオン「下がれ……また後で呼ぶ」

従者を下がらせると、ミリオンくんは私の手首を掴み、執務室へと引き入れた。

ミリオン「こんな夜更けに、どうしたの?」

尖った声でそう訊ねられ、私は……

(どうしよう、何も言葉が出て来ない……)

先ほどのミリオンくんに圧倒され、私は黙ってうつむいた。

ミリオン「ああ……賠償金のこと? それとも協定を破ろうっていう話かな」

〇〇「……本当にミリオンくんが?」

ミリオン「うん、正当な権利だからね」

ミリオンくんは私に向かって、張りついたような笑顔を浮かべる。

ミリオン「法に触れるようなことはしてないよ。これもすべて、国の財政を守るためだ」

(そんな言い方……)

それはまるで、私の知らないミリオンくんのようで……

言い様のない不安が胸を塞ぎ、心臓が重く脈打つ。

〇〇「でも……そんなやり方は、ミリオンくんらしくない気がします」

言葉に詰まりながら、そう伝えると……

ミリオン「僕らしくない……?」

そうつぶやいた、次の瞬間…-。

ミリオンくんが私の肩を押し、背後の壁に打ちつけた。

〇〇「っ……!」

追いつめた壁の両側に勢い良く手をつき、私を腕の中に閉じ込める。

ミリオン「お前を見てると――苛々する」

ミリオンくんは私を鋭く睨みつけ、吐き捨てるようにつぶやいた…-。

 

 

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