第2話 冷たい雨

謁見の後は、ミリオン王子が自らこの国を案内してくれることになった。

〇〇「お忙しいのに、付き合ってもらっていいんですか?」

ミリオン「もちろん。〇〇はこの国の大切なお客様なんだから。 王子である僕が案内するのは、当然のことだよ」

そう話しながら、ミリオン王子は無邪気に目を細める。

〇〇「ありがとうございます、ミリオン王子」

ミリオン王子と目を合わせ、にこやかに笑みを交わした。

ミリオン「話し方、まだちょっと固いね、 そうだ。〇〇、僕のことはミリオンって呼んで?」

どこか甘えるように問われ、私は……

〇〇「でも……いいんですか?」

戸惑いつつ、ミリオン王子に確かめる。

ミリオン「うん。その方が、仲良しな感じがするから」

(可愛い……)

〇〇「それじゃ……ミリオンくん?」

ミリオン「うん、その方がいい」

照れ混じりに呼びかけると、ミリオンくんは満足そうに頷いてくれた。

ミリオン「〇〇には、この国の素晴らしさをもっと知ってほしいんだ。 ほら、見て……」

ミリオンくんは私の背にそっと触れると、顔を近くに寄せた。

(あっ……)

ふいに近づいた距離に、胸がゆるく鼓動を打ち始める。

ミリオン「ここをまっすぐ行くと、世界中の商店が立ち並ぶメインストリートに繋がってる」

そう言いながら、ミリオンくんは街路樹の植えられた美しい街並みを指差す。

その大通りは、見るからに高級そうな商店や、美しいブランドロゴを掲げた店が軒を連ねていた。

(都会的で、洗練されていて……聞いていた通り、すごく豊かな国なんだ)

道行く人達の様子からも、この国で恵まれた暮らしを営んでいることがうかがえた。

〇〇「皆、穏やかで幸せそうで……素敵な国ですね」

ミリオン「〇〇にそう言ってもらえると、嬉しいよ」

(ミリオンくんのこの笑顔も、とても幸せな気持ちにしてくれるし)

男性「これはミリオン王子! 今日もご視察ですか?」

街を行く人々が、ミリオンくんの姿を見つけて気さくに話しかけて来た。

ミリオン「ええ。今日はお忍びなので、内緒ですよ?」

男性に向かい、ミリオンくんは穏やかに微笑んでみせる。

女性1「ミリオン王子! やっぱりカッコイイ……!」

女性2「いえ、いつ見ても可愛らしいわ!」

男性「ミリオン様には、本当に感謝してもしきれません!」

皆は口々に、ミリオンくんへの熱い思いや感謝を伝える。

ミリオン「僕の力なんて、微々たるものです。皆さんの努力あってこそですよ」

(すごい……こんなに国民の皆さんに慕われていて)

皆の話を真摯に聞くミリオンくんの横顔を、私は隣でにこやかに見つめていた…-。

……

その後もミリオンくんの案内で、この国の観光名所を巡っていると…-。

(あれ……?)

日が陰り、急に空が暗くなり始めた。

間もなく冷たい雨粒が降り注ぎ、ぽつぽつと地面を濡らし始める。

〇〇「ミリオンくん、雨が……」

勢いを増す雨に、慌ててミリオンくんを振り返ると…-。

ミリオン「……」

(ミリオンくん……?)

ミリオンくんは冷たい雨に打たれながら、黙って空を見上げていた。

その瞳は、どこか空虚さをたたえている気がした…-。

 

 

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