第3話 お雑煮作り

高くまで登った太陽が、木の枝に残っていた雪を溶かしていく。

窓の外の雪解けの音を聞きながら、私達はおせちのお膳を囲んでいた。

フロスト「うまい……が、これでは腹にたまらん」

ひとしきり食べてから、フロストさんがお箸を置く。

○○「じゃあ、何か作りましょうか」

フロスト「ほう、お前、料理ができるのか」

○○「あまり上手じゃないですけど……台所を借りられるでしょうか」

フロスト「ああ、大丈夫だろう。今日、この旅館は貸切だ」

○○「え!?」

フロスト「そうと決まれば、厨房に行くぞ。それで、何が作れるんだ?」

そうして台所に到着すると、私は旅館の方に尋ねながら材料を探していく。

○○「フロストさん、好きなものは何ですか?」

フロスト「ウイスキー」

○○「……」

(ウイスキーの入ったお料理って、あるのかな)

私は、台所の隅にある料理本を開く。

フロスト「何でもいい。お前の元いた世界の料理に興味がある」

フロストさんは、私の手から料理本を取り上げた。

(何だか、嬉しいな)

○○「……はい」

フロストさんは、壁にもたれて物珍しげに台所を観察している。

(難しいものは、自信ないし)

○○「お雑煮……とか?」

フロスト「象煮? 象を食ったことはないな」

フロストさんは、驚いたように目を丸くする。

○○「いえ、象じゃなくて……えっと、お餅の入ったスープみたいな」

フロスト「オモチが何なのかも知らないが、スープは好きだ」

○○「じゃあ、お雑煮にしますね。お口に合うといいんですけど……」

私は、早速お雑煮作りにとりかかった。

お鍋に出汁を張ってから、野菜を洗う。

次に、火鉢に小さな火を起こし、お餅を網に載せた。

フロスト「それは……何をしている?」

にんじんを花形にくり抜いていると、フロストさんが興味深そうに近寄ってくる。

○○「にんじんをお花の形にしてるんです」

フロスト「ほう、それがにんじんか」

○○「え!?」

フロスト「切られたものしか見たことがない」

(そうなんだ……)

○○「何だか、ホッとしました」

フロスト「何故だ?」

○○「フロストさんにも、知らないことがあるんだなあ……って」

フロスト「当たり前だろう」

○○「でも、完全無欠なんじゃないかなって思ってたから……」

フロスト「……次から、野菜の実物について勉強することにしよう。 それで、なぜにんじんを花形にしているんだ?」

○○「こうしておくと、お椀に浮いた時に綺麗に見えるでしょう?」

フロスト「なるほど、中々考えているな」

フロストさんは、にんじんをつまみ上げ、しげしげと見つめる。

フロスト「貸せ。これくらい、俺にもできる」

○○「い、いえ。フロストさんは疲れてるんですから」

フロスト「いいのか? そっちで鍋が何やら吹き出しているが」

○○「あ!」

フロスト「これを使うんだな」

私が火を調節している間に、フロストさんは器用ににんじんを花形に切り抜いていた。

○○「すごい。上手ですね」

フロスト「料理をするのは初めてだが、悪くない。 料理人達は、こうして作っていたんだな」

フロストさんは、楽しそうににんじんを切り抜いていく。

(こんなことも、珍しいんだ)

○○「じゃあ、にんじん、お願いします」

他の野菜を手早く切り、お餅の焼け具合を確認する。

お餅はちょうどぷっくりと膨らみ、香ばしい香りを醸していた。

フロスト「その奇怪なものは、なんだ」

○○「これですか? お餅です」

フロスト「これがオモチか……」

一つ一つに驚くフロストさんがなんだか可愛くて、私は思わず笑ってしまう。

お餅も焼き上がり、お汁も煮えたところで、お汁を小皿に取り味見をした。

○○「熱……っ」

思ったよりもお汁が熱く、唇を火傷してしまう。

フロスト「何をした」

○○「いえ、味見をと……」

フロストさんが私の唇に軽く触れ、自分の方が痛そうに顔をしかめた。

フロスト「馬鹿なことを……」

○○「たいしたこと、ないですから」

フロスト「……」

そして、小皿を取り上げると、慎重に味見をした。

○○「どう……ですか?」

フロスト「美味い。 きっと、俺が切ったにんじんがいい味を出しているのだろう」

得意げに言って、フロストさんは手振りでもう一口味見を催促する。

ひとすじすくって小皿を差し出すと、嬉しそうに受け取った。

フロスト「お前は冷めてからにしろ。まあ、熱いほうが美味いが」

(穏やかな新年……楽しんでもらえているかな)

お雑煮の香りが台所を満たしている。

美味しそうに味見をするフロストさんを見ていると、何だか胸が幸せで満たされていくのだった…―。

 

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