第5話 遠ざかる声

厚い雲が空を覆う翌日・・・―。

(キースさんにできる限りのことをしたい)

(こんなの、償いにならないかもしれないけど・・・・・・)

キースさんからはオルゴールの事情を聞いた私は、メイドさんに頼み込んで、彼の部屋の掃除を代わってもらっていた。

(キースさんが、よく眠れるように)

ベッドを整え、キャンドルの上で香を炊く。

部屋中を丁寧に整えてから、ふと外に目をやると、突然に雨が降り始めていた。

(キースさんは、市街地に視察に行かれていたよね)

(濡れてしまったら、大変)

あわてて傘を手にすると、私は部屋から駆け出した。

市街地へ徒歩で行こうとした私に、城の人達は馬車を用意してくれた。

申し訳なさが募ったけれど、すがるように頼まれて、やむなく馬車で市街地へやって来ていた。

車窓からキースさんの姿を見つけると、私はすぐに馬車を止めて雨の中に駆け出す。

キース「お前・・・―」

私を見て、キースさんは目を丸くした。

キース「わざわざ傘を持ってきたのか?」

○○「キースさん持っていかれなかったと思って・・・・・・でも、そうですよね」

キースさんの後ろでは、従者の方が傘をさしかけている。

(私・・・・・・馬鹿だ)

自分の愚かさにうなだれると、キースさんが私の手から傘を受け取った。

キース「そうか。世話をかけたな」

キースさんは従者の方を下がらせて、私にその傘を差しかけてくれる。

そうしてその傘に自分も入った後、私の顔をじっと覗き込んでいる。

キース「お前・・・・・・」

(キースさん・・・・・・?)

○○「あの・・・・・・どうかされましたか?」

キースさんは、そっと私の頬に手を触れる。

キース「お前・・・・・・顔赤いぞ」

○○「えっ・・・・・・」

(そう言えば、少し熱いかも・・・・・・)

次の瞬間・・・・・・クラリと世界が歪む。

(あれ・・・・・・?)

キース「おい!」

私の腰元を強い力が支え、空が遠ざかっていく・・・―。

キース「○○・・・・・・っ」

キースさんが私の名を呼ぶ・・・・・・

その声を聞きながら、私は闇の中へと落ちていった・・・―。

 

 

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