第3話 かすかな笑み

窓から吹き込むつ冷たい風に背を震わせる。

(奴隷って?)

破片を拾うため、床にしゃがみ込んだままの私を、氷のような眼差しが見据えている。

キースさんは、おもむろに私に足を突き出した。

キース「気づかないのか?」

○○「え・・・・・・?」

事態を全く理解できず、私は瞳を瞬かせる。

○○「あの、何に・・・・・・ですか?」

キース「鈍い奴だな。 俺の靴にほこりがついているのが見えないのか」

キースさんの靴先を見ると、小さなほこりがついている。

○○「あ・・・・・・」

(ど、奴隷ってそういうこと?)

(どうして、こんな・・・・・・でも、きっとキースさんの大切なものを壊してしまったんだ)

○○「・・・・・・」

どうしていいかわからないものの、自責の念からハンカチを取り出そうとすると、拾った破片がいくつか、手の平からこぼれ落ちてしまった。

○○「あ・・・・・・」

慌ててそれを拾う。

キース「・・・・・・」

黙って見ていたキースさんが、静かに立ち上がった。

○○「あ、あの?」

キース「・・・・・・靴も満足に拭けない奴隷は、いらない」

○○「・・・・・・すみません」

キース「出ていけ」

○○「え?」

キース「外で反省しろと言ってるんだ」

○○「は、はい・・・・・・」

上から私を見下ろすキースさんの表情は、はっきりとは見えない。

その声の冷たさに追い出されるように、私は部屋を後にした。

(奴隷になれなんて・・・・・・)

呆然と立ち尽くしていると、手の中に割れたオルゴールの破片を乗せていたことを思い出した。

(でも、きっと・・・・・・すごく大切なものだったんだ)

(・・・・・・きちんと謝らなきゃ)

破片をこぼさないように、ポケットからハンカチを取り出す。

美しい音色を思い出しながら、私はそっとそれを包んだ。

空庭に出ると、降りつける雨の冷たさに身を震わせた。

(少し寒い・・・・・・でも)

細かく砕かれたオルゴールを思い返す。

(私が、壊してしまたんだから・・・・・・)

うつむくと、冷たい雨が首筋を濡らす。

髪を伝い頬を濡らす雫を拭うこともせず、私は途方に暮れていた。

・・・

・・・・・・

どれくらい時間が経ったのかもわからないまま、私はその場に立ち尽くしていた。

(寒い・・・・・・)

雨に濡れた体が、小刻みに震え出す。

その時・・・・・・

空に大きな音が響き渡り、辺りが一瞬真っ白に光る。

○○「・・・・・・」

(か、雷・・・・・・?)

なおも激しさを増していく雷の音に、私は耳を抑えてその場にしゃがみ込んでしまった。

すると・・・・・・

キース「情けない奴だな」

いつの間にかキースさんが傍に立っていて、私を見下ろしていた。

○○「キースさん・・・・・・」

キース「・・・・・・」

傘もささずに、雨に濡れながら私をじっと見つめている。

不意に、その手がそっと私に差し出された。

○○「あ、ありがとうございます」

その手に触れるのがためらわれて、私はそっとまつ毛を伏せた。

キース「・・・・・・」

キースさんの手が私の手首を掴み、力強く引き上げる。

キース「外で反省しろと言われて、馬鹿正直に雨に濡れていたのか?」

○○「・・・・・・はい」

キース「仕様のない奴だ」

キースさんに手を引かれて部屋に戻ると、彼は私をソファーに座られてくれる。

(私のせいで、キースさんもびしょぬれになってしまった)

○○「わ、私・・・・・・お風呂を沸かしてきます」

そうつぶやくと、キースさんがそっと私の頭に手を置く。

○○「・・・・・・?」

彼が微かに目を細めて、私の胸が小さく音を立てた。

(キースさん・・・・・・?)

いつの間にか小降りになった雨が、窓を優しく叩いていた・・・―。

 

 

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