月7話 冷たい声と暖かな手

しばらくしてメイドさんが食事を持ってきてくれると、キースさんは人払いをする。

キース「口を開けろ」

○○「え?」

キース「食べさせてやると言っている」

○○「・・・・・・っ」

驚いて頬を染めた私に、キースさんはスープをすくってくれた。

○○「・・・・・・ありがとうございます」

ドキドキと鳴る胸の音に戸惑いながらも、スプーンを口に含む。

微かにジンジャーが香るスープは、緊張のせいで味がほとんどわからなかった。

キース「あと少し、食べられるか?」

キースさんの声に、胸の高鳴りを抑えてどうにか頷き返す。

そうしてスープを半分ほど食べると、彼は私の唇を指先でぬぐった。

キース「もう薬を飲んでも大丈夫だろう」

キースさんにガラスの水差しを唇にあてられ、促されるままそれを口にふくんだ。

○○「ありがとうございます・・・・・・」

微かに甘い薬を飲み終えて、私はぺこりと頭を下げる。

キース「全く・・・・・・なぜ無理をした。 オルゴールのことなら、気にする必要はないと言っただろう」

○○「でも・・・・・・」

キース「自分の管理もできないのか?倒れるまで気づかないとは、呆れた奴だ」

キースさんは私をベッドに寝かせ、掛布をかけてくれながら小言を言った。

○○「・・・・・・」

キース「よくわかった。お前が、一人では何もできないということがな」

(償いをするつもりだったのに、また迷惑をかけてしまった)

○○「・・・・・・ごめんなさい」

(私、本当にダメだな)

ただ謝ることしかできず、私は掛布で顔を隠した。

キース「・・・・・・まあ、いい。 そろそろ薬が効きはじめる頃だろう。今日のところは休め」

そう言って掛布の上から私の頭を撫でると、彼は部屋を出ていった・・・―。

・・・

・・・・・・

それから数日後・・・―。

キース「もういいと言っても聞かないのか」

○○「きちんと、お詫びをしたいんです」

体調が戻った私は、キースさんの再三の制止も聞かず、彼のお世話に戻っていた。

キース「全く・・・―」

キースさんは呆れたようにため息を吐いた後、ゆっくりと口を開いた。

キース「・・・・・・ならば、こうしよう」

キースさんの漆黒の瞳が、真っ直ぐに私を見つめている。

キース「望み通り、お前は俺の奴隷だ。その代わり、お前のことは俺が管理してやる。 ・・・・・・いいな」

冷たい声で言い、彼は私の額に手を当てる。

その手のひらの温かさに、胸がトクンと音を立てる。

けれど私はこの時、キースさんの言葉の意味を理解できてはいなかった・・・・・・

 

 

<<月6話||月最終話>>