太陽SS 羽子板を買いに

人々の熱気が、オレを高揚させる…-。

〇〇から離れ、オレはある店へとやって来た。

アインツ「店主! この店で一番の羽子板をくれ!」

女子で賑わう店先で、オレは店主に向けて高らかに声を上げる。

そう、ここは羽子板の店…-。

(オレと〇〇との恋の架け橋となる店だ!)

店主「あれ? さっきのお客さん」

アインツ「そうだ、店主! あの時言っていただろう? 彼女に羽子板を買ったらどうかと!」

店主「い……言ったけど……」

アインツ「〇〇にふさわしい、一番の羽子板をくれ!」

店主「わっ、わかった」

店主が慌てたように、羽子板を選び始める。

きっと、オレの溢れんばかりの熱意に気おされたのだろう…-。

(無理もない。オレは今、〇〇への想いで胸が熱く燃えているからな!)

(この冷たい風さえ、今のオレには爽やかなそよ風に感じる!)

思えば、あの時…-。

オレは多くの友や弟とこの国へやって来た。

だがしばらくして、弟達は、忽然と姿を消した…-。

アインツ「う~む、どういうことだ? あいつらが消えてしまったが……」

辺りを見渡しても、奴らの姿はどこにも見当たらない。

(まさか……ここには異次元の入口があるのか?)

(それとも迷子になったのか?)

(まったく、仕方のない奴らだな。 きっと浮かれて店を見ていたんだろう)

(せっかくオレが面白い店を見つけたというのに)

アインツ「この珍しい菓子を買ってやりたかったが……この混雑の中、迷子で泣いていなければいいがな」

そんな時、オレは人込みの中で彼女の姿を見つけた。

アインツ「〇〇!」

〇〇「え……?」

〇〇が振り向く。

その姿に、オレの心臓が口から飛び出そうなぐらい高鳴る。

(なっ、なんなんだこれは!)

(こんなに人が多いと言うのに、〇〇だけが輝いて見えるぞ!)

(もしかして、〇〇は、女神なのか!?)

(だからこそ、この輝きなのか!?)

〇〇「アインツさん……!」

人波をかき分けて、オレは〇〇の元へと向かう。

アインツ「驚いた! まさか、こんな所で会うとはな!」

〇〇「私もです」

〇〇が微笑む。

(〇〇の笑顔……可愛い過ぎる!)

アインツ「新年早々、なんて縁起がいいんだ!」

(今年一年のオレへの悪い気が、全部消えた気がする!)

(きっとこれは運命なんだろう……そう、ここで出会うことが決まっていたに違いない!)

(ん? そう言えば……)

ふと、〇〇が一人なことに気づいた。

アインツ「〇〇は、一人なのか?」

〇〇「はい。お詣りだけして帰ろうと思っていたので。 まさかこんなに賑わっているとは思いませんでした」

アインツ「世界中の人間が集まるからな」

(〇〇は初めて来たのか……それは驚くだろう)

(いや、待て……)

(今、一人と言ったか?)

(こんな女神のような〇〇が一人でいるなんて、危険じゃないか!)

アインツ「よし! オレと一緒に回ろう!」

〇〇「え……?」

アインツ「一人で回るのは大変だからな! オレがいれば華麗な足さばきでこの人込みもすり抜けられるぞ!」

〇〇「いいんですか?」

アインツ「いいんだ! オレも今は一人だからな!」

(弟達なら、きっと大丈夫だろう)

(それよりも、〇〇が心配だ!)

(それにオレは、〇〇と一緒にいたい!)

〇〇「……今は?」

アインツ「それにせっかく会えたんだ! そうだろう? 〇〇!」

オレは〇〇の手を握る。

〇〇「はい……!」

アインツ「よし!」

(思わず手を握ってしまったが!)

(〇〇が嫌がっていないのなら……)

(よ、よし!)

オレは〇〇の手を引き、人で溢れる道を歩き出した。

この時は気づいていなかった。

〇〇と一緒にいたい理由も、この高鳴る気持ちも…-。

こうして、オレは〇〇と社まで歩いて、気づいた。

(〇〇への思いが、恋だということに!)

(恋とは、なんて熱いんだ!)

〇〇の笑顔を思い出す。

(それだけで胸が高鳴る!)

アインツ「それにしても、さっきは危なかった……」

(羽子板を買うために、〇〇に嘘をついたが……)

(〇〇の優しさに、本当のことを言いそうになってしまうところだった)

ぐっと掌を握り締め、自分の心も戒める。

(なんとか〇〇を残してここまでやって来たが……)

(さすがに、オレが羽子板を買いに来ているとは思っていないだろう……)

(本当のことを知ったら、きっと〇〇は驚くに違いない!)

アインツ「そしてオレは告白するんだ! 〇〇に!」

店主「そ、そうか……頑張れ!」

店主はオレに羽子板を渡しながら、激励を飛ばす。

アインツ「ああ、頑張るに決まっている! 店主、お前の激励は忘れないぞ!」

店主「ああ……」

アインツ「必ず伝える! オレが〇〇をどれほど好きなのかを!」

〇〇に羽子板を渡したら、ここにまた戻ってこよう。

今度は彼女だと、店主に紹介するために…-。

 

 

おわり。

 

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