第3話 王子の務め

カノエさんが九曜の街を案内してくれると約束してくれた翌日…―。

九曜の街は今日も晴天の下、太陽の光を屋根瓦が弾いてまぶしいくらいに輝いている。

その日差しに何度目か目を細めながら、私はカノエさんが案内する街並みを眺めてまわった。

(さっきからたくさんの人が忙しそうに走りまわってるような……)

カノエ「どうかしたか?」

私が不思議そうに人の動きを見ていると、カノエさんに声をかけられた。

○○「活気のある街だなと思って……」

カノエ「ああ、それは祈念の儀の前だからだ」

○○「祈念の儀……?」

カノエ「祭りみたいなもんだな」

○○「……お祭りがあるんですか?」

カノエ「ああ。今回の祭りからは、申の王族が九曜の神楽殿を1年守っていくことになっているからな。 皆、準備に張り切っているんだ」

○○「そういうことだったんですね」

活き活きとした表情で駆けまわる人達の、大きな声があちこちで飛んでいる。

(選択肢―太陽― 賑やかな街ですね)

○○「賑やかな街ですね」

カノエ「騒々しいくらいだろうが、そこがこの街のいいところだろうな」

○○「はい。そう感じます」

(素敵……活気も熱気も溢れてて)

皆の様子に、目を奪われていると…―。

男「危ないぞっ」

突然後ろから怒鳴り声が聞こえ、振り返った。

○○「あ…―」

見れば、大きな荷物を抱えた人が私のすぐ後ろまで迫っていた。

カノエ「こっち寄ってろ」

ぶつかりそうになる寸前、カノエさんの腕に腰元を引き寄せられた。

○○「……!す、すみません、気づかなくれ……夢中になってしまって」

彼の手が離れた後も、その熱が残ってドキドキしてしまう。

カノエ「気にするな。祭りの準備期間中だからな」

カノエさんはそう言って、何でもないことのように笑ってくれた。

(皆が慕うのもわかるかな……優しくて、頼りがいがあって)

さっきの大荷物の人は、忙しい様子でそのまま角を曲がっていった。

○○「あの荷物は何の準備でしょう?」

カノエ「あれは演舞台の用意だな。街の広場で組み立てて、祭りに参加する民達が芸を披露するんだ。 一番大きいのは俺達が踊る大舞台だが、あちこちに小舞台も作るからな」

○○「……そうなんですね。あ、じゃあ、あれは何ですか?」

ちょうど目の前を、今度はたくさんの提灯を持って歩く人を見かけて、続けざまに聞いてしまう。

カノエ「あれは道案内用に角々にかける提灯だ。矢印がついているだろう?」

○○「あっ、本当ですね」

その後も、私のどんな質問に対しても即座に彼の返事がかえってきて……

○○「……全部、頭に入っているんですか?」

カノエ「当然、入っている。王子がここの全てを取り仕切るのがしきたりだからな」

さも当たり前であり、何でもないことのようにカノエさんは答えるけれど、この規模を一人で取り仕切ることに、私は目を丸くした。

カノエ「そんなに驚くことか?」

不思議そうに首を傾げるカノエさんに……

○○「尊敬します」

カノエ「そう言ってくれるやつは……多いけど。 王子として当然の務めだから、俺にはピンとこない」

平然としてそう言う彼に、私は尊敬の念を抱いた。

(だから、皆から信頼されてるんだ)

一人で心の中で頷いていた、その時…―。

男「カノエ様、今日もいつもの場所で」

カノエさんと同じような格好をした男性が前から歩いてきて、私達に声をかけた。

カノエ「ああ」

○○「……?何かあるんですか?」

カノエ「まあな。別に大したことじゃないが」

○○「?」

カノエ「楽しみは取っておくんだろ?」

カノエさんの大きな手が、ごく自然に私の頭の上に乗せられた。

(……何でだろう、ドキドキする)

それ以上は深く聞けなかったけれど……

少し早くなる鼓動を感じて、私はそっと小さく吐息を吐いた…―。

 

 

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