第1話 響く一喝

こよみの国・九曜…―。

奏の月を目前にした頃、目覚めさせた王子に招待されてやってきた九曜の街は、瓦屋根が美しく並び、しっとりと情緒を感じられるところだった。

(空気が澄んでいるのかな……屋根瓦の黒さが締まって見える)

(それに、雪が降っても映えそう)

風格のある街並みをうっとりと眺めていると、声をかけられた。

カノエ「○○か、よく来たな」

私を招待してくれたカノエさんが、腰に手を当てながら立っていた。

○○「ご招待、ありがとうございます」

カノエさんは私の言葉には応えず、するりと身を翻す。

カノエ「行くぞ」

(えっ……!)

どこへとも言わずに、歩き出したカノエさんの後ろを私は慌てて追いかけた…―。

……

少し先を行くカノエさんは肩をいからせ風を切るように歩いていく。

(いろいろ聞きたいけど……)

歩幅の大きいカノエさんに急いで追いつき、ちらりと見上げる。

口元を堅く引き締めるその姿は、どこか話しかけ辛い雰囲気で……

(どうしよう……緊張する)

なんだか歩き方までぎこちなくなってしまう。

すると…―。

気がつけば街のあちこちから、強面の派手な格好の人達が集まってきていた。

(誰……?一体、何が……!?)

怯える私をよそに、その人達は次々にカノエさんに大きな声で話しかけてくる。

男1「王子!この間はありがとうごさいます。また来てやってください!」

男2「王子、俺……すっげー楽しみにしてます!」

声をかける人がどんどん増えて、祭りのような賑やかさになる。

声と声が重なって、誰が何を話しているのかわからなくなった頃…―。

カノエ「お前ら、うるさい。黙れ」

ぴしゃりとした一喝が青い空に響き渡った。

一瞬にして辺りが鎮まり返る。

(だ、大丈夫かな……?)

張り詰めた空気を心配し、カノエさんに声をかけようとした、その時…―。

男1「王子、すみません。つい会えたのが嬉しくて」

男2「お客さんがいましたね」

カノエさんを囲んだ人達は、快活な笑みを浮かべながら一斉に謝った。

後頭部を掻き、はにかんだ笑みを浮かべながら目礼してくれる。

(皆、悪い人じゃないみたい。それに……)

(カノエさんのことが大好きで信頼してるんだ)

濃い琥珀色の目を細めているカノエさんも、怒っていないようだった。

それどころか仲間を見る眼差しには、優しさと温かさが灯されていた…―。

 

 

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