カノエさんから活気溢れる九曜の街を案内してもらってから数日後…―。
(カノエンはどこだろう)
城に行くといつも会えていたのに、今日は彼の姿がどこにも見えず、私は廊下で従者の人に声をかけた。
従者「カノエ様でしたら、おそらく練習をしておられると思います」
(……練習?)
首を傾げる私を見て、従者の人は穏やかな笑みを浮かべる。
従者「もし会いに行かれるのでしたら、こちらの手拭いをお渡しくださいますか?」
○○「はい、わかりました」
従者「ありがとうございます。場所は……」
手拭いを受け取り、早速教えてもらった場所に足を向けた…―。
…
……
辿りついた場所は、カノエさんの城の近くにある森の一角だった。
(そういえば、何の練習か聞きそびれちゃったな)
そのことが少し気になりながらも、私はそのまま森の中を進んだ。
(従者の方のお話だと、この辺りにカノエさんがいるはずなんだけど……)
(あ……!)
周りを見回すと、すぐに彼の姿が目に入った。
日差しが一筋、木々の隙間から差し込んで、カノエさんを浮き上がらせている。
カノエ「はっ!」
額に汗を弾けさせながら、カノエさんは躍動感のある演舞を練習していた。
カノエ「……それっ!」
遠目から見ただけでも、鬼気迫るほどの真剣さが伝わってきて、胸が騒がしくなる。
(すごい気迫……とても気軽に声をかけられる雰囲気じゃない)
持ってきた手拭いをきゅっと両手で握りしめた。
俊敏で力強い動きに目を奪われ、時間を忘れるほどに彼の一挙一動を追いかけてしまう。
(もっと近くで見たい……)
思わず数歩足を踏み出したところで、大きめの枝を踏み折ってしまった。
カノエ「!」
大きな音が響きわたると同時に、カノエさんの動きがぴたりと止まる。
カノエ「○○?どうしてここが……」
○○「お疲れ様です……すみません。お邪魔してしまって……」
おずおずと言うと、引き締められた彼の表情が緩んでいった。
カノエ「別にいい。ちょうど休憩しようと思ってたところだ。 だが……少し恥ずかしいな」
○○「見とれてました」
カノエ「本番はもっと目が離せないようにしてやる」
自信に満ちた言い方は、力強さがある。
気迫をたたえた彼の琥珀の瞳は、輝きを増していた。
○○「カノエさん、従者の方がこれを」
私は彼に近づいて、持ってきた手拭いを差し出した。
カノエ「ありがたい。ちょうど新しいものが欲しかったんだ」
嬉しそうに受け取ると、早速額や首筋で珠のように光る汗を拭う。
引き締まった筋肉が露わになると、いかに鍛えているかがわかって、胸が早鳴った。
○○「街で教えてくれなかったことは、このことだったんですね」
カノエ「必死に練習してるって……努力してるなんて、男がわざわざいうか?」
カノエさんが口元を手拭いで隠し、はにかんだように続ける。
カノエ「どうせ当日になれば見せることになるしな」
ぶっきらぼうに言う彼の頬は、微かに赤くなっていた。
ー----
○○「……全部、頭に入っているんですか?」
カノエ「当然、入っている。王子がここの全てを取り仕切るのがしきたりだからな。 そんなに驚くことか?」
ー----
(何でもないことのように言ってたけど……やっぱり、ものすごく努力してるんだ)
カノエさんという人物を知るほどに、その男らしさやひたむきさに惹かれ……
頬が熱く、上気してしまうのを感じていた…―。