第3話 スラムへの招きと、不安

その翌朝…ー。

(昨日エドモントさんの言っていたスラムのことが気になって、あまり眠れなかった……)

胸に引っかかる気持ちが抜けなくて、私は気分を変えるため、中庭へ足を伸ばすことにした。

美しい花の咲き誇る中庭に出ると、何やら話し声が聞こえてきた。

(あれ? この声……エドモントさん?)

自然と足を止め、耳を澄ます。

大臣「エドモント様、ご決断を」

エドモント「そうすぐに決断できることではないよ。父上とも、もっときちんと話し合いたい」

(やっぱり。それに、もう一人は、昨日の大臣さん、かな?)

立ち聞きをしているようで気が引けてしまい、その場を離れようとすると……

大臣「エドモント様! あのスラムは、我が国の環境を阻害するものです」

大きな声が聞こえてきて、思わずその場で固まってしまう。

大臣「今すぐに取り壊すべきだと、議会でも意見が上がっております。 それに。貴方様がどんな目に遭わされたのか、よもや忘れたわけではありませんよね?」

エドモント「それは……」

エドモントさんが、苦しそうに瞳を閉じる。

大臣「エドモント様」

エドモント「……わかったよ、大臣。けれど、一度視察に行かせてくれ」

(とても重要な話だよね? このまま聞いてちゃ駄目だ)

そう思って、一歩後ずさった時…ー。

エドモント「誰だっ!?」

足音を立ててしまったせいか、エドモントさんの声が飛んでくる。

少しためらったものの、私はおずおずと顔を出した。

◯◯「ごめんなさい。大事な話みたいだから、すぐに離れようと思ったんだけど……」

エドモント「君か……」

エドモントさんが、私を確認して、困ったように笑みを浮かべる。

それから柔らかな手つきで、手招きをしてくれた。

エドモント「いいよ、こちらへおいで。 恐らく聞こえていたとは思うけれど……ごめんね、◯◯。 これから街へ出かけたいから、今日は一人で過ごしてくれるかな? また明日は、君が楽しめるようにお相手をしよう」

◯◯「一人なのは大丈夫です。でも……」

エドモント「どうしたんだい?」

エドモントさんが、優しい表情で私の言葉の先を待ってくれている。

ー----

大臣「それに。貴方様がどんな目に遭わされたのか、よもや忘れたわけではありませんよね?」

エドモント「それは……」

ー----

◯◯「あの、私も街へご一緒してはいけないでしょうか?」

気が付くと、そう言ってしまっていた。

エドモント「え? 何を言っているんだ! 駄目だよ。言っただろう?」

◯◯「でも……。 エドモントさんは……何とかしたいと思っているんですね」

エドモント「ああ……けれど、俺は…ー」

昨日のエドモントさんの、つらそうな様子がどうしても頭に思い浮かんでしまう。

(何か力になれればいいのに)

大臣「良いではありませんか、エドモント様」

◯◯「え……?」

エドモント「何を言っているんだ、大臣。彼女を危険にさらすような真似は、絶対に駄目だ」

大臣「しかし、せっかく他国の王族の方がいらっしゃっているのですから。 ご覧になっていただき、意見を頂戴したいものです」

エドモント「そうは言っても、彼女は姫君だし、女性をあのような危険な場所に連れて行くわけには……」

大臣「もう何年もまとまっていない問題でございますよ? せっかくの機会でございます」

大臣は、にやりと口角を上げてエドモントさんを見ている。

その様子に、妙に胸がざわつくのを感じた。

エドモント「……わかったよ。では、今回だけはそうしよう。 確かに大臣の言う通り、様々な意見を取り入れるのは大切なことだからね」

(連れて行ってもらえるのは、うれしいけど……)

◯◯「あの、ありがとうございます」

私の援護をしてくれた、大臣にお礼を言うと…ー。

大臣「いえ。こちらこそ、無理にお願いしてしまい。 万が一何かあったとしても……我々がお守りいたしますので」

その言葉とは裏腹に、大臣のその雰囲気になぜだか怪しさを感じてしまう。

◯◯「は、はい……ありがとうございます」

エドモント「ただし、◯◯。 街では決して、俺のそばから離れてはいけないよ」

◯◯「はい」

エドモント「うん、いい子だね」

ふわりと大きな手のひらで頭を撫でられる。

(そんなに危険な場所……なのかな?)

胸の痛みを隠そうと私は、笑顔を作るのだった…ー。

 

 

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