第1話 一輪の花と、彼の表情

紅茶の国・ダジルベルク 蒼の月…ー。

澄んだ空高くに、太陽が昇る頃……

エドモント王子に招待された私は、城に向かい、絵画のような街並の中を歩いていた。

(ティーパーティのお土産は、このクッキーで大丈夫だよね)

クッキーを手に、洋菓子屋さんを出た瞬間、服の裾をくいと引かれた。

男の子「ねえ、おねえちゃん、クッキーちょうだい!」

みすぼらしい恰好をした男の子が、私を見上げて笑顔を向けている。

◯◯「えっと……」

男の子「ね、お願い!」

◯◯「う、うん。これでいいかな?」

無邪気にお願いをされて、断りきれずに差し出すと…ー。

男の子「わぁ……ありがとうっ! これ、お礼にあげるね。バイバイ!!」

男の子は心底嬉しそうな顔をしてクッキーを受け取り、白い花を一輪、手渡してくれた。

◯◯「可愛い花……」

(あの男の子……誰だったんだろう)

少し気になりつつも、クッキーを買い直し、城へと向かうことにした。

……

城へ到着すると、執事さんにパーティーホールへと案内された。

城の中も、まるで絵画の中のように豪奢な造りで、感嘆のため息がこぼれる。

(いい香りがする……マスカット、かな?)

素敵な城と、芳醇な香りにうっとりしていると…ー。

エドモント「ようこそ、◯◯」

優しく包み込むような笑みを浮かべて、エドモントさんが姿を現した。

私を見て、流れるような所作でお辞儀をする。

(綺麗な人……)

思わず見とれてしまいそうなほど洗練された仕草に、しばし時を忘れそうになる。

エドモント「さあ、こちらへ」

ごく自然な動きで手を差し出され、うながされるままに彼の手を取った。

◯◯「あ……」

私の手を包み込んでくれる彼の手は、その笑顔と同じくとても優しく感じられた。

◯◯「あ、そうでした。クッキーをお持ちしたので、よろしければ」

エドモント「わざわざ持ってきてくれたの? ありがとう。 美味しそうなクッキーだね」

◯◯「ティーパーティーだとお聞きしたので」

エドモント「そんな気を使わなくていいのに。じゃあ、一緒にいただこう」

エドモントさんが、準備をさせるためかクッキーを執事さんに手渡した。

エドモント「あれ? その花は……?」

◯◯「あ、これはお店の前で……」

エドモント「……もしかして、市街地に寄ったの?」

突然、ふんわりとした笑みが彼の顔から消えて、わずかに表情が曇る。

(どうしたのかな?)

◯◯「は、はい。…..お花を、街の男の子にもらったんです」

エドモント「そう……貸して」

◯◯「あ……」

エドモントさんは、私の手から花を抜き取ってしまうと、悲しそうな顔をして、テーブルの隅に置いてしまった。

(どうして? 急に笑顔も消えて……)

彼の瞳は何かに惑うように、どこか悲しく揺れていた…ー。

 

 

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