第5話 紅茶の木の花言葉

白く染まるマッドネスの街で・・・・ー。

私は何故いつも不思議な問いかけをするのかと彼に聞いた。

○○「教えてはもらえないのですか?」

マッドハッター「・・・・」

もう一度問えば、彼の緑色の瞳が私を静かに見つめた。

○○「帽子屋さん?」

彼は視線を伏せながら小さく言葉を紡ぐ。

マッドハッター「その理由は・・・・私としては君自身に見つけてもらいたいのですが」

(私が・・・・どうやって?)

考えてみても、彼の問いかけから意味を見いだせない。

○○「・・・・わからないです」

彼は一瞬だけ寂しそうな顔をして、視線を地面から大通りに移した。

マッドハッター「さて、パーティをするならば極上のスパークリングワインも手に入れなければ」

話題を変えた彼は、再び私を促すように歩き始める。

(何を・・・・考えているんだろう)

時折、帽子屋さんがどこか遠くに思いを馳せるように空を仰ぎ見る。

そんな彼の横顔に、私はどうしようもなく惹きつけられてしまっていた・・・・ー。

けれど、次に彼が私を連れてきたのは・・・・ー。

(紅茶専門店? ワインを買うつもりだったんじゃ・・・・)

マッドハッター「店主、今年の満月の夜に収穫したダジルベルクのセカンドフラッシュを」

彼が当然のように注文をすると、しばらくしてティーポットとカップがカウンターに運ばれてきた。

マッドハッター「この茶葉は紅茶の国・ダジルベルクでもまたとない一品なのです。 なんでもその芳醇な香りはスパークリングワインの最高峰として知られるものにも劣らないとか・・・・」

やけに高く掲げたポットから、ティーカップに紅茶を注いで彼が言う。

マッドハッター「お嬢さんも試してみては?」

○○「はい」

カップを私に手渡し、彼は同じカウンターに並べられた銀の皿から紅茶のチップを指先で摘まみ取る。

マッドハッター「そういえば紅茶の葉を茂らす茶の木にも、実はしっかりと花言葉があるのですよ・・・・知っていましたか?」

○○「え・・・・?」

先ほど茶葉に触れていた指先で、彼は私の顎を自分の方へ振り向かせた。

マスカテルフレーバーと言われる心地よい香りが私の鼻孔をくすぐった。

○○「いい香り・・・・」

マッドハッター「ええ、本当に・・・・香りと言えば、先日こんなこともありましたね。 私の店にあるご婦人が帽子を仕立てに来たのですけど・・・・。 傍に近寄った時に花の匂いがする帽子をと頼まれまして」

○○「においってどんな花のですか?」

マッドハッター「その時は甘いミモザの香りを生地に含ませたかと」

○○「花の香り・・・・あ、そういえばさっきの茶葉の木の花言葉は?」

マッドハッター「おや、憶えてらっしゃった?」

彼は意外そうにため息を吐き、私から視線を外す。

言外に上手くはぐらかしたのに、と付け加えるような言い方に、答えがひどく気になってしまう。

(でもこの答えも・・・・ただ聞くだけじゃ教えてくれないのかな)

彼は試飲した紅茶を購入すると店を出て、

その後も何軒かの店に寄って私のためのドレスを探してくれた。

しかし彼の見立てに適うドレスはやっぱり見つからなくて・・・・

夕方には、彼の帽子屋へと戻ってきたのだった・・・・ー。

 

 

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