月SS プレゼントの代わりに

クリスマスに彩られた私の空中庭園で・・・・ー。

サンタを模した衣装に身を包んだ○○嬢は、不思議そうに首を傾げた。

○○「帽子屋さんは、いったい私をどうしたいんですか?」

ただ静かに微笑んだまま、彼女の頬を指先で撫でる。

(○○嬢はやはり気づいておられない・・・・?)

ほんの少しだけ残念に思って、私はそっと目を伏せた。

(私はなんて面倒な人間なのでしょう・・・・)

(ただ自分の気持ちを伝えることすら、こんな謎解きのような形でしかできないなんて・・・・)

マッドハッター「・・・・」

私はお嬢さんを抱き寄せて、その頬から顎にかけてゆっくりと指を滑らせた。

この捻くれた心に確かにある思いを、言葉の代わりに伝えるように・・・・

マッドハッター「考えは私なりにありましたが・・・・お気づきになりませんでしたか?」

○○「・・・・?」

しかし問いかけるもお嬢さんは、やはり困ったような表情をするばかり。

(これでは私はまるで道化か何かのようではありませんか)

(愛しいお嬢さんの気を引くイカレ帽子屋・・・・まさにマッドハッターの名にふさわしい)

可笑しくなり笑い出すと、○○嬢はぎょっとしたようだった。

マッドハッター「はは・・・・! いや失礼。これまでのことを思い出して、自分のことが滑稽に思えてきたもので。 君のような・・・・可愛らしいサンタに出会えた」

○○「帽子屋さん・・・・」

わずかな寂しさは胸の内側にしまい込んで、私はお嬢さんの体をさらに引き寄せた。

何も気づいていない無垢な瞳が驚きに瞬かれる。

マッドハッター「それでは可愛いサンタクロース、私と共にワンダーメアへプレゼントを配りに行きましょうか?」

○○「えっ、プレゼント!?」

思った通りの反応に内心ほくそ笑んで、私はマジシャンのように指を鳴らした。

その瞬間、パーティ会場のテーブルの上に多量のプレゼント箱が出現した。

○○「今から私と帽子屋さんが・・・・?」

マッドハッター「はい。このワンダーメアで初めてのサンタクロースになろうというのです」

(まあ、正直なところそんなことはどうでもよいのですが・・・・)

とても口にはできないことを思いながら、私はそっとお嬢さんの耳に唇を寄せた。

マッドハッター「ですが、その前に・・・・」

わざとらしく息を吹きかけるように囁けば、細い肩を震わせてお嬢さんは目をつむる。

小動物のような反応にいじらしさを感じて、知らぬ間に笑みが深くなった。

そしてその瞳が再び開かれるのを待って・・・・ー。

○○「あ・・・・」

私の顔を見た○○嬢の瞳に微かな動揺が走るのが見えた。

柔らかな唇を指の腹でなぞりながら愛を囁くように言葉を紡ぐ。

マッドハッター「して、可愛いサンタクロース、君は私に何をプレゼントしてくれるのでしょうか?」

○○「え、そんな私・・・・」

もちろんそんなものは用意してないことを私は知っている。

(我ながらなんと意地の悪い。しかしこれくらいの意地悪は許されてもよいでしょう)

(何せ君は私の本意になど何一つ気づいていらっしゃらないのですから・・・・)

マッドハッター「おや、サンタともあろう者が人々に渡すプレゼントをお忘れとは! なんと嘆かわしく、そして寂しいことでしょう・・・・」

困る彼女へ向けて、私は芝居じみた動きで悲しみを露わにする。

(優しい君は、こんな私の望みをきっと無碍にはできないのでしょう?)

○○「あの、ごめんなさい・・・・今度用意しますから」

マッドハッター「しかしクリスマスパーティは本日一日限りなのですよ? はて、これはつまり・・・・」

不安に揺れるお嬢さんの反応を楽しみながら、私は再び耳元へ囁いた。

マッドハッター「君自身がプレゼントになるしかないようですね・・・・?」

ひっつめた声が彼女の喉元からもれた。

しかしその一瞬の隙に、私はお嬢さんをテーブルの上へと押し倒した。

茶器が揺れて音を立てるなか、私は○○嬢の首筋に唇を寄せる。

(ああ、甘い香りがしますね・・・・)

(けれどこの香りも私が気まぐれに君を呼び出しでもしないと楽しめない・・・・)

マッドハッター「○○嬢・・・・私の可愛いリトルプリンセス・・・・」

○○「っ、だめですっ、帽子屋さ、ん・・・・」

身を捩るお嬢さんのバラ色の唇をキスで塞ぐ。

おそらくは彼女の知らない大人のキスで・・・・ー。

マッドハッター「本当に可愛らしいお嬢さんだ・・・・」

(けれど君は、冬にのみ現れるサンタクロースの存在のように・・・・ー)

(たまに出会うからこそ、愛おしいのかもしれませんね・・・・)

一抹の寂しさを感じた私は、その気持ちを忘れるように口づけに溺れる。

ー愛しき人よ、願いは傍に・・・・

 

 

おわり

 

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