太陽7話 約束の拳

競技を前にして、活気づくレコルドの街の中…―。

ヴィオ「いや、今日でなきゃ駄目だ。今日でないと……意味がない。 ○○は、観客席であの男の子と一緒に見ててくれ。 いいな?」

ヴィオさんに言われた通り、彼の短距離走を例の男の子と一緒に見るため、男の子を探して競技場の外まで、探しに回っていると…―。

(あ、あの子だ)

見つけた男の子は、街の隅で小さくうずくまっていた。

○○「……どうしたの?もうすぐ、ヴィオさんの競技が始まるから一緒に見よう?」

声をかけると、男の子は涙に潤んだ目で私を見上げた。

男の子「ヴィオ王子……怪我、しちゃったんでしょ?」

○○「え……?」

男の子「僕……僕、やっぱりやめよう、こんなの駄目って思って、全部取ったつもりだったんだ。 でもっ、でも、残ってたみたいで……っ」

(シューズに入ってた画鋲……この子が……)

男の子「僕、すごく悪いことしちゃった!ヴィオ王子はなんにも悪くないのに!」

大粒の涙を零し始めた男の子の背中を、優しく撫でてあげる。

○○「大丈夫だよ。ヴィオさんは、少しも怒っていなかったし、あなたに挑戦するのを見て欲しいって」

男の子「でも……」

○○「ヴィオさんね、走るのが一番得意なんだって。それで、練習では自己新記録も出したって言ってたよ。 だからヴィオ王子のこと、一緒に応援しよう?」

優しく説得を続けると、男の子はごしごしと涙を拭いて立ち上がった。

男の子「うん……!」

……

競技場に戻るとすでに、ヴィオさんがグラウンドに出ていた。

(気付いてもらえるかな……)

大勢の観客の中で難しいかもしれないと思いながら、大きく手を振ると…―。

ヴィオ「……!」

ヴィオさんも、すぐに気付いて大きく手を振り返してくれた。

ヴィオ「見ててくれよな!今日こそ絶対に、一番だ! 絶対の絶対に約束を守る!男と男の約束だからな」

ヴィオさんが、こちらへ向かって拳を突き上げる。

底抜けに明るい笑顔からは、怪我による動揺や陰りなど少しも感じられない。

○○「応えてあげて?」

そっと男の子に話しかけると、彼はおずおずと手を上げて……

ヴィオ「約束だ……!」

ヴィオさんの大声に誘導されるように、高く拳を突き上げた。

高く澄み切った空に、二つの拳が天を向く。

(良かった……頑張って、ヴィオさん!)

心の中で強く祈りながら、競技場を見つめる。

アナウンス「短距離走世界記録挑戦、まもなく開始となります」

場内へ流れるアナウンスで観客の声が大きくなった。

ヴィオさんが精神を集中するように、深い深呼吸を繰り返し、スタート地点に立った…―。

 

 

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