第6話 彼を狙う者

暗闇から出てきて、男はヘラクレスを見てニヤリと笑った。

男「ヘラクレス王子、やはりご無事でしたか」

ヘラクレス「その腰帯……母上の物だね」

ヘラクレスは男の腰に巻いた帯を見つめつぶやいた。

男「いかにも、これはヘラ様から賜った物。 あなたを消せと命を受けた時に」

〇〇「母上……? ヘラクレスを……消す?」

ヘラクレス「父上の新しい妃で、オレのもう一人の母……かな?」

ヘラクレス「それで? 命を受けたってことは、今までオレにいろんなのを差し向けたのは、キミ?」

男「ええ、あれぐらいでやられるとは思ってはいませんでしたが……」

〇〇「!」

(じゃあ……ずっとヘラクレスの命を狙っていたのは……)

私は、彼が命を狙われるたびに悲しそうに笑っていたことを思い出した。

〇〇「ひどい……」

ヘラクレス「本当だね……でも、それくらいオレのことが憎いんだろうね」

彼はまるで他人事のように笑った。

ヘラクレス「母上が怖がってるオレの馬鹿力……見せつけてやりたいところなんだけどさ。 今はオレ、できれば戦いたくないんだ。 だから帰って欲しいな~」

男「聞くわけがないでしょう」

ヘラクレス「……やっぱり。 けど、彼女は関係ないよね?」

男「一緒にいた以上、このことを言いふらされては困りますから」

ヘラクレス「……」

男が腕を高く空へ伸ばす。

森に隠れていた鳥達が空にいっせいに飛び立ち、旋回し始めた。

ヘラクレス「〇〇ちゃん、オレの傍を離れないで!」

彼が私を腕に抱き寄せる。

男が腕を振り下ろす合図に、奇怪な鳥達がいっせいに私達へと襲いかかった。

ヘラクレス「絶対にキミは守るから!」

片腕に私をしっかりと抱き寄せ、彼が鳥をなぎ払っていく。

けれど…―。

男「さすがのヘラクレス王子でも、この数を相手には難しそうだ」

ヘラクレス「!」

私をかばい続けながら戦うのは難しく、彼の腕から引き剥がされてしまった。

〇〇「っ……!」

ヘラクレス「〇〇ちゃん!」

倒れた私の前に、男が立ちはだかった。

男「こんな王子といたあなたが悪い。 まずはあなたから」

ヘラクレス「やめろ……!」

男「死ね……!」

〇〇「っ……!」

ヘラクレス「やめろ!!!」

彼の叫び声と共に、爆風が男を私の前から吹き飛ばした。

男「何っ!?」

腕で顔をかばい、風の向こうに視線を走らせる。

鳥の羽が舞い乱れる中、ヘラクレスがゆらりと立ち上がった。

〇〇「……ヘラクレス?」

風にあおられた鳥達が、力を失い次々に地面に落ちていく。

ヘラクレス「ウァァアア!」

彼が無造作に腕を振り上げると、辺りの木が音を立てて崩れ落ちた。

男「なっ……なんだこの力は……!」

男が、怯えるように後ずさる。

その距離を詰めるように、ヘラクレスがゆっくりと男に近づいていく。

ヘラクレス「彼女に……手を出すな……!」

男「ヒッ……」

荒い呼吸を吐きだし、ヘラクレスが男を見据える。

そして、男の首を片腕で掴み上げた。

〇〇「ヘラクレス!」

私の叫び声が、森の中に響きわたった…―。

 

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