第4話 揺れ始める気持ち

ヒュドラを倒し、ヘラクレスは私を片腕に抱いたまま山道を登っていく。

川沿いを進み、ようやく深い木々の茂みから抜け出た。

ヘラクレス「ここまで来れば大丈夫かな」

立ち止まると、彼はほっと息を吐いた。

彼の腕の上で、私は小さく身じろぎをする。

〇〇「っ……ヘラクレス……」

ヘラクレス「え……? わああっ!ごめんね~!」

担いでいたことを今思い出したのか、慌てて私を降ろした。

ヘラクレス「びっくりした?大丈夫?」

彼が不安そうに私の顔を覗き込む。

優しい彼の表情に、私は胸を撫で下ろした。

〇〇「私は大丈夫だよ。ごめんね、ヘラクレスにばっかり歩かせちゃって」

ヘラクレス「気にしなくていいよ。 オレが勝手にやっちゃったんだし」

そう言って、彼は両手を振りかぶる。

その服の袖が、血で赤く染まっていることに気がついた。

〇〇「怪我してる……」

ヘラクレス「え? あれ?あ~木でやっちゃったかな? でも、こんなの全然平気! 丈夫だからすぐ治っちゃう」

私の視線から逃れるように、ヘラクレスが腕を振る。

私はその腕を掴んだ。

ヘラクレス「え……?」

〇〇「駄目だよ。ちゃんと手当てしないと」

ヘラクレス「怒られた……」

〇〇「だって、こんなの放っておけないよ。 いくら強くたって、怪我は痛いから……」

ヘラクレス「〇〇ちゃん……」

彼の服の袖をまくると、血のにじんだ傷口にハンカチをあてる。

(傷、浅そうでよかった……)

ホッと息を吐くと、そのままハンカチを彼の腕に巻いた。

ヘラクレス「オレね、こんなに誰かに怪我を心配されたの、久し振り。 ありがとう。〇〇ちゃん!」

目をうるうるさせて、ヘラクレスが両腕を広げた。

〇〇「!」

(抱きつかれる……?)

その続きを想像して、胸が音を立てた。

けれど…―。

(あれ……?)

彼は腕を広げたまま、考え込んでいるのか動かなくなってしまった。

〇〇「ヘラクレス?」

ヘラクレス「え~っと……あ! このまま川沿いを歩こっか」

〇〇「え?」

誤魔化すように笑うと、彼は山の先を指差す。

ヘラクレス「きっと夜には綺麗な星空が見られるよ」

(ヘラクレス、どうしたんだろう……?)

自分の鼓動が、まだ落ち着かずに音を立て続ける。

その音と共に、少しだけ離れた距離に小さく胸が痛んだ…―。

 

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