第3話 新たな魔術

数日後…-。

授業が終わった後、イリアさんが私の席へとやって来た。

イリア「〇〇様、この後はお忙しいでしょうか?」

弾んだ声から、イリアさんが上機嫌なことが伝わってくる。

(どうしたのかな?)

〇〇「イリアさん、何か良いことがあったんですか?」

イリア「それはまだ……秘密です」

(こんな表情、初めて見たかも……)

悪戯っぽいイリアさんの微笑みが、私の胸をくすぐった。

〇〇「この後なら、私は大丈夫です」

イリア「本当ですか!?」

イリアさんの表情が、一段と明るくなる。

イリア「では、一緒に来てください」

イリアさんは、ごく自然に私の手を引いて、教室を出て行く。

〇〇「……!」

(手を……)

一瞬驚いたけれど、楽しそうな彼の様子がなんだか私も嬉しくて、そのまま手を握り返した。

(どこに行くのかな?)

いつもより積極的なイリアさんに少し戸惑いながらも、私は胸を躍らせた…-。

そして、イリアさんが私を連れてきてくれたのは……

(えっ……真っ暗!?)

そこは、明かりのついていない真っ暗な教室だった。

〇〇「イ、イリアさん?」

イリア「少し待っていてください」

次の瞬間…-。

イリアさんが両手を広げると、淡い光を纏いながら一枚の鏡が現れた。

〇〇「……!」

息つく暇もないほど、イリアさんの手の中から次々に鏡が現れる。

(わぁ……)

そしてその鏡は、彼が手をかざした方へと移動し、次々と教室中に張り巡らされていく…-。

(教室中が鏡張りに……!?)

最後にイリアさんがパチンと指を鳴らすと、鏡は七色の光を反射し始めた。

(これって……)

〇〇「万華鏡みたいですね……!」

イリア「〇〇様、正解です」

イリアさんは、満足そうににっこりと微笑む。

(すごく綺麗……)

その幻想的な光景に、見入ってしまっていると……

イリア「気に入っていただけましたか?」

〇〇「はい……! すごく綺麗です……」

イリア「良かった……喜んでいただけて嬉しいです!」

美しく煌めく七色の光を見やり、イリアさんが目を細める。

イリア「新たに考えた魔術の一つなんです。これを文化祭に発表しようと思いまして……」

〇〇「すごく、素敵だと思います!」

(いつまでも眺めていたいくらい、綺麗……)

しばらくその景色を眺めていると、すとイリアさんの視線を感じた。

〇〇「イリアさん?」

イリア「……っ」

けれど、目が合うとすぐにその視線は私から外れてしまう。

イリア「いえ……っ、何でもないです」

イリアさんは、コホンと小さく咳払いをした。

イリア「〇〇様のお陰で、少し自信が持てました。ありがとうございます」

〇〇「いえ、そんな……私は喜ばせてもらっただけです。 でも良かった。これで文化祭の発表もできますね」

けれど、イリアさんは困ったように眉をひそめて……

イリア「ただ……新たな魔術をもう少し作りたいと思っているのですが、まだアイデアが浮かばないのです」

顎に手を当てて、深く考え込んでしまう。

(新しいアイデアか……)

〇〇「他のクラスを回ってみますか? 何かいいアイデアが浮かぶかもしれませんし」

イリア「なるほど……それは、いい考えですね! 〇〇様は、いつも私の思いつかないことを教えてくださる」

ポンと手を叩いた後、少し恥ずかしそうな眼差しを私に向けた。

イリア「あの……もしよろしければ、一緒に回っていただけますか? お恥ずかしながら、私は他のクラスに知り合いも少なく……。 〇〇様がいてくださると、心強いです」

〇〇「はい、もちろんです!」

眼鏡の奥のイリアさんの瞳が、嬉しそうに細められる。

私達はあらゆる教室を回り、一足先に文化祭の空気を味わってみることにした…-。

 

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