第2話 楽しみな文化祭

文化祭で歌の発表をしてみたい。

イリアさんからそう相談されて、言葉を詰まらせてしまうと…-。

イリア「すみません。困らせてしまいましたね。 歌は、やはり止めておきます。国に恥をかかせるわけにいきませんしね」

○○「そんなこと……無いと思います」

以前聴いた彼の歌声は、確かに音程は合っていなかったけれど、どこか優しい響きを持っていた。

イリア「○○様はお優しいですね。 ですが、困りました……」

イリアさんは、顎に手を当てて考え込んでしまう。

イリア「そうなると……文化祭で何をしたらいいのか悩んでしまいまして……」

大きなため息を吐いて、イリアさんが机に顔を伏せる。

その拍子に、机の上にあった手帳が開いた状態で床へ落ちてしまった。

(あっ……)

文化祭の日付の場所に、大きな花丸が書かれている。

更に、その日をカウントダウンするかのように、過ぎた日付にバツ印がつけられていた。

(イリアさん、文化祭を本当に楽しみにしてるんだ)

イリアさんは慌てて手帳を拾うと、照れたように微笑んだ。

イリア「見えてしまいましたよね……まるで幼い子どものようにはしゃいで、恥ずかしい限りです」

○○「そんなことないです。私だってとても楽しみにしています」

イリア「城以外の世界をあまり知らないので、私は学園生活が楽しくて仕方ないのです。 しかし、文化祭のような経験は初めてなので……一体何を発表していいのかわからなくて」

(真剣に悩んでるんだ……何か力になれたらいいのに)

それは、普段公務をテキパキとこなしているイリアさんからは、考えられない姿だった。

イリア「魔術の研究の方が数倍簡単ですね」

そうつぶやくと、ふうっと深いため息を吐く。

(魔術の研究……? そうだ)

○○「イリアさんの得意な魔術の研究結果を展示するのはいかがですか?」

イリア「魔術……」

けれどイリアさんは、困ったように眉尻を下げた。

イリア「それはいいのですが……皆さんは退屈ではないでしょうか?」

○○「私、魔術は使えないので、とっても興味があります」

そう言うと、イリアさんの憂いに満ちた表情が和らいでいく。

イリア「○○様にそう言っていただけると、心強いです」

(良かった……)

彼の優しい微笑みにつられ、私の頬も自然に綻ぶ。

午後の暖かな陽射しが、窓から教室に差し込んでいた…-。

 

<<第1話||第3話>>