第5話 気づいた、気持ち

闇に染まった森を、足の痛みを忘れて走る。

(執事さんが、ヴァイリーさんは森へ行ったと言ってた……)

(どこにいるの……!?)

その時、鈍い音が森に響いた。

(今のは……銃声!?)

音がした方に走るとヴァイリーさんの姿があった。

○○「……っ! ヴァイリーさん!」

ヴァイリーさんはしゃがみ込み、脇腹から血を流している。

ヴァイリー「○○……、なんでここに……早く逃げろ!」

○○「えっ……」

ヴァイリーさんの前方に、もう一人姿が見えた。それは……

ジェス「来てくれて手間が省けたよ。君も始末するつもりだった」

敵意に満ちた禍々しい声が、私に向けられる。

ジェス「邪魔なんだよ……せっかく兄さんが眠りについて、王位が継げると思ったのに。 ご丁寧に起こしてくれちゃってさ。 この上、君の力で兄さんの呪いが解けたら都合が悪いからね」

銃口が私に向けられる。

ジェス「さよなら、お姫様」

私はまぶたをきつく閉じた。

(撃たれる……っ)

耳が割れそうなほどの激しい音が辺りに響く。

(……痛みが、ない?)

まぶたをゆっくりと開けると…-

○○「……っ!!」

ヴァイリーさんが私を、しっかりと抱きしめていた。

ヴァイリー「……大丈夫、か?」

○○「ヴァイリーさん……、腕から、血が……」

ヴァイリーさんは、私を抱く力を強くする。

ヴァイリー「無事だな……よかった」

ジェス「ちっ、まあいい。今度こそ……」

なおも引き金を引こうとするが、

ヴァイリー「……!」

ヴァイリーさんが凄まじい速さでジェスに向かい、突進する。

ジェス「うわああぁっ!」

ヴァイリーさんに噛みつかれたジェスの肩から、血が流れ出した。

ヴァイリー「○○に手を出すな……でないと、今ここで殺す!」

ヴァイリーさんの眼光が鋭く光る。

ジェス「わ、わかった……! 約束する……」

彼は怯えた様子で、体を引きずりながら去って行った。

同時に、ヴァイリーさんが地面に崩れ落ちる。

○○「ヴァイリーさん……!」

ヴァイリー「来るな! ……怪我で、呪いへの抵抗力が弱まっている」

ヴァイリーさんは、苦しそうに息を漏らしている。

ヴァイリー「いつ獣化するかわからない……早く去れ……」

○○「できません……!」

ヴァイリー「わかれよ! オマエを傷つけたくないんだよ……。 何でオレにそんな構うんだよ!」

○○「……っ」

ヴァイリーさんのことを想うと、胸が苦しくなる。

(最初は……ちょっと怖かった)

―――――

ヴァイリー『目覚めさせてくれて……ありがとな』

ヴァイリー『……オマエ、いい匂いがするな。陽だまりみたいな』

ヴァイリー『…オマエや街の皆を傷つけたくないんだよ……っ!』

―――――

(本当は不器用で、優しくて……)

(独りにならないで欲しい。苦しまないで欲しい……)

いつの間にか、私の胸にいっぱいになっていた気持ち。

○○「私は……ヴァイリーさんのことが……」

ヴァイリーさんと見つめ合った、その時……

突然ヴァイリーさんの体が白い光に包まれた。

○○「ヴァイリーさ……」

まぶしい光の中心に向かって、私は懸命に手を伸ばした。

 

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