第4話 獣化の呪い

森から城へ戻った頃には、、すっかり日が暮れてしまっていた。

夜になり、少し空気の冷えた部屋で私は足の手当てを受けていた。

ヴァイリー「……どうだ?」

ヴァイリーさんは、慣れない手つきで私の足に冷たい布を当ててくれる。

○○「……大丈夫です」

―――――

ジェス『やぁ兄さん……呪いは解けそう? そろそろ時間切れじゃないかと思って、心配してるんだよ』

―――――

(あの言い方だと、ヴァイリーさんが呪いに……)

ヴァイリー「……オマエはこの国からもう去れ」

○○「……っ!」

唐突に放たれた言葉に胸が痛んだ。

ヴァイリーさんは私の頭に、ポンと手を置く。

ヴァイリー「……だから。オマエのその顔を見んのは苦手なんだよ。 オレには、獣化の呪いがかかってる」

ヴァイリーさんは、ぽつりぽつりと低い声で話し始めた。

ヴァイリー「この国の王族として生まれる時稀にかかってまうらしくてさ……運ねーよな。 街の奴らは半人半獣だろ?あれが普通なんだ。 けど獣化の呪いは、完全に恐ろしい獣の姿になっちまう」

○○「でも、ヴァイリーさんも街の人達と同じ姿です……」

ヴァイリー「今は大丈夫だけど、夜になると勝手に獣化しちまう時があるんだ。 街でも噂になってただろう? 誰かに見られちまったかな。 獣化はこの国では忌むべきもの……討伐対象だ」

(そんな……)

○○「呪いを解く方法は……?」

ヴァイリー「さぁな。先代達の中には解けたって人もいたって聞いたけど、どうだか。 ……それにたぶん、もうすぐ時間切れだ」

○○「時間切れ……?」

ヴァイリー「呪いを特にもタイムリミットがあるんだよ。 それを過ぎると、完全に獣の姿になって元に戻れなくなる。 最近、獣化することが多くなってきた……もうすぐ時間切れなんだと思う」

そこまで言って、ヴァイリーさんは私に背を向けた。

ヴァイリー「明日、執事にオマエを送らせる。準備しとけよ」

○○「ここにいたいです……」

思わず気持ちがこぼれてしまう。

ヴァイリー「……駄目だ。自分の立場考えろよ」

○○「待ってください!」

部屋から出て行こうとするヴァイリーさんの腕を、思わず掴んだ。

○○「……時間切れになったら、どうするつもりなんですか?」

ヴァイリー「この国出て一生独りで生きる。獣化した先代達も、ずっとそうしてきた」

○○「そんな……っ!」

ヴァイリーさんの瞳が、怯えたように揺れる。

ヴァイリー「オレは怖いんだ…! 獣化したオレを、皆がどんな目で見るか……。 怒りに駆られて、理性を失うかもしれない……オマエや街の皆を傷つけたくないんだよ……っ!」

そう言って私の手を振り払い、今度こそ部屋から出て行った。

(どうしたら、いいの……?)

一人残された私は、呆然とその場に立ちすくむことしかできなかった。

―――――

ヴァイリー『……ったく、あのおっちゃんは。ホラ、貸せ』

ヴァイリー『……オマエ、いい匂いがするな。陽だまりみたいな』

―――――

(ヴァイリーさん……!)

祈るような気持ちで顔を上げると、棚に『国記』と書かれた分厚い本が並んでいた。

○○「この国の……歴史?」

本に手を伸ばし、食い入るように呪いについて書かれた項目を探した。

(何か……何かないの……?)

手のひらが本のインクで真っ黒になった頃……ある記載を見つけた。

――呪いは、真実の愛によって解ける――

○○「真実の、愛……?」

呪いを解く方法というには、あまりにも抽象的なものだった。

でも、他に手がかりがない今は、それが一筋の希望のように思えた。

(ヴァイリーさんはこのことを知ってるの……?)

気がつくと私は、部屋を飛び出していた…-。

 

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