月SS 失いたくない

森の中でジェスに深手を負わされ、呪いへの対抗力が落ちてしまったオレは…―。

獣化した後、彼女を狙う狼を切り裂いていた。

ヴァイリー「血の臭いに、集まってきやがったか……」

いつの間にかオレ達は狼の群れに囲まれている。

そうして殺気立った狼達は躊躇することなく、オレ達へといっせいに飛びかかってきた。

ヴァイリー「……!!」

オレは○○をぐいっと引き寄せて、彼女を守るように自分の胸へと押し込める。

○○「ヴァイリーさんっ……!」

彼女がオレの名を叫んだ次の瞬間……狼達の牙が次々と、深手を負うオレの体に突き刺さった。

ヴァイリー「……っ!!」

○○「ヴァイリーさん!放してください……!」

ヴァイリー「うるせぇ……黙ってろ……」

オレの腕の中で必死に暴れる○○を、更に強い力で胸へと押し込める。

(オレはたとえ自分がどうなろうとも、オマエだけは絶対に守り抜いてみせる……)

そうしてオレは、ほんの少しだけ体を離して腕の中の○○を見つめ、彼女に向けて静かに語り始めた。

ヴァイリー「なんとか隙を作る……その間に逃げろ」

○○「ダメです……それじゃヴァイリーさんが!」

ヴァイリー「オレは別に、このまま喰われてもいい……」

○○「……っ!どうして……!?」

ヴァイリー「……今回の獣化はいつものとは違う。恐らく、時間切れだ。もう元の姿には戻れない」

自分の言葉に、ちくりと胸が痛む。

(オレは……オレはもう、元には戻れない。今までみたいに、オマエの傍にはいられないんだ。だから…―)

一つだけ深呼吸をして、頭の中にある想いを口にする。

ヴァイリー「オレはもう生きてても死んでてもどっちでも変わらない存在だ。……オマエは逃げろ」

○○「そんなの、ダメです……っ!私は、ヴァイリーさんを助けたい……!」

(……!?)

突然オレを助けたいと叫ぶ彼女に驚き、不覚にも一瞬だけ隙を見せてしまう。

そうして次の瞬間、○○はオレの腕を押し退け、狼達の前に立ちはだかった。

ヴァイリー「……バカ野郎っ!」

狼達が、すぐに攻撃の矛先を彼女へと向ける。

その瞬間、何故かオレの目には俊敏な狼達の動きが、スローモーションで映り始めた。

(……やめろ)

オレの鼓動が、どくんどくんとうるさく響く。

そんな中、狼達は彼女に向けて牙をむき出しにしながら襲い掛かっていった。

(今ここで○○を失ったら、オレは…―オレはっ……!!!)

思考がショートした次の瞬間、オレは空に向かって森中に響き渡るほどの咆哮をあげていた。

そうしてはっと意識を取り戻し、辺りを見回すと……

(……)

狼達が、その場から散り散りに逃げて行く後姿が見えた。

(……!○○は!?……よかった、無事か……)

狼達を追い払った後、○○の無事を確認したオレは一瞬だけ息をつく。

そうして未だに呆然としている彼女をキッと見つめ…―。

ヴァイリー「……無茶すんな!!これだからオマエは!」

思わず強めに一喝してしまう。

○○「……ごめんなさい」

オレの剣幕に、○○はしゅんとうなだれる。

そんな彼女の頭に、オレはいつものように手を置いてそっと撫でた。

ヴァイリー「無事で、良かった……」

(本当に、本当に良かった……)

彼女の無事に安堵のため息をつきながら、オレはなおも○○の頭を撫で続ける。

そんなオレの手を、彼女は少し戸惑いながらも受け入れてくれたのだった…―。

 

おわり。

 

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