第4話 ダーツに魅せられて

彼と様々な場所を巡っている間に、太陽はすっかり西へ沈んでしまった。

するとマルタンさんは……

マルタン「この辺りに俺の行き付けの店があるんだ。君さえよければ、俺にもう少しだけ○○ちゃんの時間を分けてくれないかな?」

○○「……はい」

照れながらも頷くと、彼は嬉しそうに目元に皺を作った。

……

彼が私を案内したのは、落ち着いた雰囲気のダーツバーだった。

○○「よくいらっしゃるんですか?」

マルタン「ああ、ダーツもそうだけど、こういった勝負事は好きでね」

店内ではちょうどハウストーナメントが行われるところで、マルタンさんはその勝負にエントリーした。

マルタン「……」

マルタンさんの狙い通りに、次々にボードにダーツが投じられていく。

(上手だなあ……)

思わず、彼に見惚れていると…―。

マルタン「そんなに見つめられたら、緊張しちゃうなあ」

けれど、彼はその後も狙いを外すことはなかった。

……

マルタン「君は、ダーツはやらないのかい?」

次々とトーナメントを勝ち上がったマルタンさんは、休憩に酒を一杯あおりながら私に話しかけた。

○○「はい、やったことがなくて……」

マルタン「そうなのかい、ならいつか君に教えてあげられたらな」

カランと、グラスの中の氷を鳴らしながら、マルタンさんが目を細めた。

マルタン「……おっと 決勝戦が始まるようだ」

○○「頑張ってくださいね」

マルタン「ああ、見ててくれよ。でもできることなら君の心も打ち抜きたいものだね」

○○「……っ」

マルタン「……はは、ちょっと口が過ぎたかな」

(勝負の前なのに、余裕たっぷり……)

おどけていたマルタンさんだけど、試合が始まると表情が一変した。

マルタン「……」

的に狙いを定めるその瞳は、いつもの柔らかさではなく、今は鋭さを帯びていた。

しん……と騒がしい店内が、そこだけ静かになる。

○○「……!」

彼の手から放たれたダーツが、いとも簡単に的を射ぬいていく。

(すごい……)

マルタンさんは予選同様、狙い通りのところへと、寸分の狂いなくダーツを投じていく。

そうして訪れたラストゲーム…―。

○○「もう少しですよ、マルタンさん……!」

手に汗握りながら見守る中、マルタンさんの手からダーツが静かに離れて…―。

マルタン「……」

ダーツが刺さる前に、マルタンさんの口元には勝利を確信する笑みが浮かべられていた…―。

……

○○「おめでとうございます!」

マルタン「ああ、かわいい声援送ってくれてありがと」

勝利にウィンクを決める姿すら、とても自然な仕草に思えて…―。

(こんな人と一緒の時間を過ごしてるなんて、なんだか夢みたい)

お酒が入っているせいか、先ほどからずっと胸の音が早い。

こうして彼との一日を充分に楽しんだ後、彼は私を宿まで送り届けてくれた。

……

○○「今日はありがとうございました、とっても楽しかったです」

マルタン「俺も君のような素敵な女性と時間を共にできて光栄だったよ」

○○「そんな、私の方こそ」

自然と唇がほころび、笑みが漏れる。

マルタン「……」

ふと私を見て押し黙ったマルタンさんに……

○○「……」

じっと彼を見つめると、深い瞳の色が、わずかに揺れた気がした。

マルタン「……参ったね、そんなに見つめないでくれないかい?」

○○「え……?」

帽子を下げ、マルタンさんが目元を隠す。

マルタン「俺としたことが……おやすみ、いい夢を」

そっと囁くように言って、帽子を胸元まで下ろす。

彼は嬉しさとも困惑ともとれない、不思議な表情を浮かべていた…―。

 

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