月5話 もう一度、ダーツを

その後も数日間、私はマルタンさんに連れられてヴァン・ブリュレを巡っていた。

彼は王子なのに、なんだか城には居づらいみたいで、毎日私を街で出迎えてくれていた…―。

マルタン「王子だなんて年はとっくに超えているからね。城にいると、いろいろと煩いんだよ」

(でも……これ以上、彼の好意に甘えてばかりじゃだめだ)

(マルタンさんは大人だから何も言わないけれど……ご迷惑をおかけしてるかもしれない)

そんなことを思って、私は翌日この国を離れることに決めた。

けれど…―。

(もう一度、ダーツをしているところ、見てみたいな……)

彼への、憧れにも似た想いは、募るばかりだった…―。

……

夕方になり、私は待ち合わせ場所でマルタンさんに再会した。

マルタン「……俺がダーツをする姿を見たいって?」

○○「はい」

マルタンさんは頷くと、くすりと笑って私の手を取った。

マルタン「いいよ、ちょうど俺の知り合いがダーツバーでマスターをやってる。行ってみるかい?」

○○「……はい!」

嬉しさに大きく頷くと、彼は声を上げて笑った。

……

手をひかれて半地下にあるバーの扉を開くと、気のいいマスターが声を掛けてきた。

マスター「いらっしゃいませ。おや、その子が噂のお嬢さんですか」

(噂?)

マスター「マルタン様が、珍しくひとりの女性に入れ込んでいると……確かに、可愛らしい方ですね」

マルタン「おいおい、人聞きの悪いことをいわないでくれよ」

苦笑して、マルタンさんは私を店の奥へとエスコートする。

すると、店内にいた女性達の視線が彼に集まった。

(確かに……マルタンさんに、素敵な女性がいっぱい寄ってきてもおかしくないよね)

胸にほんの少しの痛みを感じながら、気付かれないように彼の顔を仰ぎ見る。

いかにも大人らしい彼が浮かべるのは、余裕と自信に満ちた笑み……

(こんな人が、どうして私の相手をしてくれるんだろう?)

そう思いはするものの、今夜は彼と過ごせる最後の日……

私は気を取り直して、背筋を伸ばした…―。

 

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