月7話 サイの傷

サイさんに体を支えられて、なんとか外に出ることができた。

○○「……サイさん、ごめんなさい」

サイ「○○、大丈夫?」

まだ苦しかったけれど、彼の心配そうな眼差しに、頷き返す。

○○「本当にありがとうございます。子猫は……」

サイ「無事だから、安心して」

子猫は、サイさんの腕の中で丸まっている。

(良かった……)

その姿を見ていると、緊張の糸が切れ、自然と頬が緩んだ。

少年達「お姉ちゃん、大丈夫!?」

バケツを持ち、全身びしょ濡れの子どもたちが私に駆け寄ってくる。

(皆、必死で消火をしてくれてたんだ)

○○「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

小屋の前には、消火活動をする為に多くの人が集まっていた。

サイ「あの子たちが、皆を集めてくれたんだ」

視線の先には、心配そうに私を見つめる少年たちの姿があった。

少年達「ごめんなさい……お姉ちゃん」

○○「大丈夫だよ」

泣き出しそうな少年達の頭を撫でて、微笑んだ。

火の勢いはだんだんと弱くなり、くすんだ煙が空へと登っていた。

○○「良かった……治まりそうですね」

サイ「うん、そうだね」

不意にサイさんの腕が目に止まる。

(赤くなってる……火傷!?)

○○「サイさん、その腕……私のせいで!」

サイさんは微笑んで、火傷を隠すように、上から手を重ねた

サイ「大丈夫だから」

(サイさん……)

少年達の活躍もあり、少しして火事は治まった。

子猫が私の足元に擦り寄ってくる。

(よかった)

サイ「この子も、城に連れて帰ろうか」

不意に、サイさんが言った。

○○「え!? 本当ですか? でも……国王様が、動物がお嫌いだって」

サイ「うーん……でも、帰るところがなくなっちゃったしなあ。 しばらくの間なら、バレないんじゃないかな」

サイさんは、困ったような笑顔を見せた。

サイ「さあ、皆で一緒に城に帰ろう」

(サイさん……)

サイさんが抱き上げると、子猫は嬉しそうに喉を鳴らした。

(皆で一緒に帰れるなんて、嬉しいな)

そのとき、子猫がサイさんの腕の中でわずかに動いて、彼が一瞬眉を潜める。

(……火傷が、痛いんだ!)

○○「サイさん、火傷、手当てしないと……!」

サイ「大丈夫」

○○「傷、見せてください」

子猫をサイさんの腕から取り上げて、火傷を今度はしっかり確認する。

○○「さっきより、また少し赤くなってる……」

サイ「本当に、大丈夫だから」

○○「すぐにお城へ帰って、手当てしましょう」

サイ「……こんなの、たいした傷じゃないよ」

サイさんは眉を潜め、火傷の痛みに耐えている。

(辛そうな顔……)

○○「ダメです、早く手当てしましょう」

火傷をしていない方のサイさんの手を引いて、歩き出した。

お城に到着すると、サイさんをベッドに座らせ、早速手当てを始める。

(サイさん、火が怖いはずなのに、火傷までして……)

氷で火傷を冷やしながら、彼の瞳を覗き込む。

○○「サイさん、助けてくれて本当にありがとうございました」

サイ「……」

○○「火が苦手なはずなのに……」

サイ「昔、少し火傷してからずっと怖かったんだけど……。 今回は、あまり怖いって感じなかったな」

○○「……?」

サイ「だって、○○は、もっと怖かったでしょ?」

(……え?)

サイ「早く助けてあげられなくてごめん……」

○○「ど……どうしてサイさんが謝るんですか?」

サイさんは視線を床へ向けて、その表情を隠してしまう。

(サイさん……?)

彼の沈んだ声色に、思わず手にしていた氷を落とすと、カシャリと音が立った…―。

 

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