第4話 君までの距離

トルマリさんの話題になり、アルマリの表情に暗い影が落とされる。

(アルマリ……どうしたのかな?)

不意に曇った表情が気にかかり、私はアルマリの方に顔を傾ける。

すると…-。

○○「……っ!」

すぐ近くにいたアルマリの顔に、頭をぶつけてしまう。

(痛い……)

アルマリ「……大丈夫?」

○○「ご、ごめん……」

アルマリ「ううん……僕は大丈夫だよ」

アルマリ「トルマリともね、こうして一緒に寝てると頭をぶつけたりするんだ」

○○「トルマリさんとも……?」

アルマリ「僕がベッドで寝てると、気づいたら隣で寝てることがあって」

(そっか……距離が近いなって思ってたけど)

(アルマリのこの距離感は、トルマリさんとの距離感なんだ……)

アルマリと私の顔の距離は、手のひらの大きさより近い。

(私は……この距離はやっぱり恥ずかしい)

私が少しずつ距離を取ろうとすると、アルマリはじっと私の目を見つめてきた。

アルマリ「……」

(う……寂しそうな、顔)

アルマリ「僕、何かしちゃったかな?」

○○「そ……そうじゃないんだけど」

アルマリ「○○は、僕が近づくとすごく緊張するよね」

○○「それは、アルマリ、すごく近いから……ドキドキしちゃうよ」

アルマリ「僕にとっては普通なんだけど……。 そっか、僕はトルマリ以外の人と、あまりこうして過ごさないからか……。 普通はこんなに近くないんだね……ごめん」

アルマリはまつ毛を伏せて、頬を赤くしていた。

(あ……気にしちゃったのかな?)

○○「ト、トルマリさん、早く帰ってくるといいね」

話題を変えようと、口を開くけれど……

アルマリ「うん……」

トルマリさんの話になると、やっぱりアルマリは言葉を詰まらせる。

(喧嘩でも……しているのかな?)

アルマリ「……トルマリは、僕に構い過ぎるんだ。 たった二人の兄弟だし、僕がこんなだから心配するのもわかる。 でも……」

アルマリは、トルマリさんへの思いをゆっくりと話し始めた。

アルマリ「僕がどこへ行く時も、何をする時も。いつもトルマリが口を出してくる。 それが最近ちょっと……鬱陶しく感じるときがあって。 この国の王子として、しっかりしないといけないのに。 このままだと、いつまでたっても公務も一人じゃできない王子だって、周りも不安にさせてしまう。 だからトルマリから離れたい……でも、そんなこと言えない。トルマリが傷ついちゃうから」

(アルマリ……悩んでたんだ……)

○○「トルマリさんが帰ってきたら、言ってみよう? アルマリのことが大事な
トルマリさんが、わかってくれないはずがないよ」

(兄弟って……きっとそうなんじゃないかな)

私がそう言うと、アルマリは目を細めて微笑んだ。

アルマリ「○○、ありがとう。 僕、式典頑張るね……トルマリがいなくても大丈夫なこと、証明しなきゃ」

○○「うん、頑張って」

私はアルマリの手を取って励ます。

すると、アルマリは私にぎゅっと抱きついてきた。

○○「……っ」

(ドキドキしちゃう…でも、これがアルマリの距離感なんだよね……)

しかし、次の瞬間…-。

○○「え……!」

アルマリの手が、私の胸元に触れた。

○○「……っ」

心臓が、飛び出しそうなほどに音を立てている。

けれども、アルマリは私以上に驚いた様子で…-。

アルマリ「……!」

直ぐに手を離すと、目を丸くしながら、黙り込んでしまった。

(どうしたのかな……?)

アルマリ「トルマリと違う……」

自分の手のひらを見つめ、彼がつぶやく。

○○「そ……それはそうだよ」

(だって、トルマリさんは男の人で……)

アルマリ「…ごめん……っ」

初めてその事実に気がついたように、アルマリが頬を染めた。

爽やかな風に、花たちが揺れる。

彼の瞳に映る私の姿も、微かに揺らいで見えた…-。

 

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