第4話 ルシアン

アディエル「だからオレは……ルシアンのために生きたい」

アディエルくんの決意が、私の心を切なく締めつける。

アディエル「ルシアンの羽を真っ黒に変えたのはオレだ。 本当なら、オレの翼が黒くなってたはずなんだ……」

腹の底から絞り出すような痛切な声が、さらに私の胸も焼いていく。

○○「……黒い羽になってしまうと、どうなるのでしょうか?」

アディエル「ただ、黒くなるだけだ……だけど、黒い羽は気味が悪いと……嫌われていて」

アディエルくんの言葉尻が、言いよどむように小さくなる。

(見た目だけで差別されてるってことなんだ……)

(なんて……悲しいことなんだろう)

アディエル「だから、オレは出来るだけのことをルシアンのためにしてやる。それだけの恩義があるんだ」

○○「アディエルくん……」

アディエル「オレ、あいつが止めろって言うから、もう昔の悪ガキみたいなやんちゃも止めたんだ。 あいつが好きなものを真似て鳥に餌やったり、あいつの好きな歌を一緒に歌ったり……。 ルシアンが本当にやりたかったこととか、オレのせいで、できなくなったはずだし」

○○「そうなんですね……」

アディエル「周りからは金魚の糞みたいだって言われるけど……それのどこが悪いってんだよ」

(今までずっと……ルシアンさんに尽くしてきたんだろうな)

○○「大事なんですね」

アディエル「そうだぜ。何をしたかよりも、ルシアンと一緒なのが大事なんだ」

(一緒にいることが……大事)

アディエル「悪いな、湿っぽい話して。 あ、でも、オレはお前にだってちゃんと恩を返したい! お前がいなかったらオレずっと眠ったまんまだったし、そしたらルシアンの力になれないし」

突然右手を取られ、痛いくらいに握りしめられる。

○○「ア、アディエルくんちょっと痛いかも……」

アディエル「! わ、悪ぃ……」

握られた力が緩められても、アディエルくんは私の手を離さなかった。

アディエル「……ごめん、でも、お前の手ってなんかあったかくて安心して……」

熱のこもった手を、ぎゅっと握り返した。

(……ルシアンさんは、こんなアディエルくんのことを、どう思ってるんだろう?)

そんなことを考えていると、目の前のアディエルくんの顔が、ぱあっと明るく輝く。

○○「え……?」

アディエル「ルシアンの遣いだ」

振り返ると、一人の使者が近づいてきた。

使者「アディエル様、ルシアン様がお呼びです」

アディエル「あいつから呼び出しなんて、珍しいな。ごめん、行ってもいいか? 急用かもしれないからな」

申し訳なさそうな顔をしているものの、うきうきとした声は抑えられないらしい。

○○「はい、もちろんです」

アディエル「悪りぃな。今度、この埋め合わせはするから! 絶対だ!」

最後の言葉を言い終わらないうちに、アディエルくんは真っ白な羽を大きく広げて飛び立った。

その姿はとても綺麗で……

(確かに……あんなに綺麗な羽が黒くなってしまったら、悲しいよね)

青空の彼方へ消えていく姿を見つめながら、そのことに胸が痛むのを感じていた…-。

 

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