アディエル「だからオレは……ルシアンのために生きたい」
アディエルくんの決意が、私の心を切なく締めつける。
アディエル「ルシアンの羽を真っ黒に変えたのはオレだ。 本当なら、オレの翼が黒くなってたはずなんだ……」
腹の底から絞り出すような痛切な声が、さらに私の胸も焼いていく。
○○「……黒い羽になってしまうと、どうなるのでしょうか?」
アディエル「ただ、黒くなるだけだ……だけど、黒い羽は気味が悪いと……嫌われていて」
アディエルくんの言葉尻が、言いよどむように小さくなる。
(見た目だけで差別されてるってことなんだ……)
(なんて……悲しいことなんだろう)
アディエル「だから、オレは出来るだけのことをルシアンのためにしてやる。それだけの恩義があるんだ」
○○「アディエルくん……」
アディエル「オレ、あいつが止めろって言うから、もう昔の悪ガキみたいなやんちゃも止めたんだ。 あいつが好きなものを真似て鳥に餌やったり、あいつの好きな歌を一緒に歌ったり……。 ルシアンが本当にやりたかったこととか、オレのせいで、できなくなったはずだし」
○○「そうなんですね……」
アディエル「周りからは金魚の糞みたいだって言われるけど……それのどこが悪いってんだよ」
(今までずっと……ルシアンさんに尽くしてきたんだろうな)
○○「大事なんですね」
アディエル「そうだぜ。何をしたかよりも、ルシアンと一緒なのが大事なんだ」
(一緒にいることが……大事)
アディエル「悪いな、湿っぽい話して。 あ、でも、オレはお前にだってちゃんと恩を返したい! お前がいなかったらオレずっと眠ったまんまだったし、そしたらルシアンの力になれないし」
突然右手を取られ、痛いくらいに握りしめられる。
○○「ア、アディエルくんちょっと痛いかも……」
アディエル「! わ、悪ぃ……」
握られた力が緩められても、アディエルくんは私の手を離さなかった。
アディエル「……ごめん、でも、お前の手ってなんかあったかくて安心して……」
熱のこもった手を、ぎゅっと握り返した。
(……ルシアンさんは、こんなアディエルくんのことを、どう思ってるんだろう?)
そんなことを考えていると、目の前のアディエルくんの顔が、ぱあっと明るく輝く。
○○「え……?」
アディエル「ルシアンの遣いだ」
振り返ると、一人の使者が近づいてきた。
使者「アディエル様、ルシアン様がお呼びです」
アディエル「あいつから呼び出しなんて、珍しいな。ごめん、行ってもいいか? 急用かもしれないからな」
申し訳なさそうな顔をしているものの、うきうきとした声は抑えられないらしい。
○○「はい、もちろんです」
アディエル「悪りぃな。今度、この埋め合わせはするから! 絶対だ!」
最後の言葉を言い終わらないうちに、アディエルくんは真っ白な羽を大きく広げて飛び立った。
その姿はとても綺麗で……
(確かに……あんなに綺麗な羽が黒くなってしまったら、悲しいよね)
青空の彼方へ消えていく姿を見つめながら、そのことに胸が痛むのを感じていた…-。