太陽最終話 花畑でのこと

花々が、吹く風に楽しそうに揺られている…-。

アディエルくんは花畑に座りこんで肩を落とし、ルシアンさんに叱られたことに意気消沈していた。

アディエル「オレ、あいつに嫌われたのかな。もしそうだったら、どうしたらいいんだか……」

○○「……そうかもしれません」

あまりに辛そうだったから、思わず言葉が口をつく。

アディエル「え?」

○○「今みたいに、アディエルくんが自分のことで一喜一憂するのを、ルシアンさんは心配したのかも……」

アディエル「それって……オレは嫌われてないってことか?」

一番気になるのはそこらしい。

○○「嫌ってないと思います。まだ……」

アディエル「まだって……おいっ」

○○「でも、このままアディエルくんが責任を感じすぎて、自分の好きなこともそっちのけになるなら……。 アディエルくんのためにも、ルシアンさんは嫌いになることもあるかも……」

アディエル「なに、恐ろしいこと言ってんだよ」

本当に怯えた表情をするので、ひどく胸が痛んでしまう。

(アディエルくんを見てると、ルシアンさんの気持ちがわかる気がする……)

自分を顧みず、他人のために身を尽くすアディエルくん……

けれど、その一途さにはどこか危うさが潜んでいる。

○○「アディエルくんは恩返しがしたいんですよね?」

アディエル「そうだぜ。だから、あいつのすることに付き合って…-」

○○「でもそれは……恩返しじゃないと思います」

アディエル「え……?」

○○「ルシアンさんは、そういうことをして欲しいわけじゃないと思います」

アディエル「……やっぱり、オレが嫌いで」

さらに深く沈みゆく頭に、必死で語りかける。

○○「逆です。好きだから……好きだから、アディエルくんらしくあって欲しいんだと思います。 だって黒い羽になる前から友達だったんですよね」

アディエル「ああ、マブダチだ」

○○「だったら、きっとアディエルくんが無理をするのは嫌いなはずです」

私は止められないまま、感情のままに話し続ける。

アディエル「無理……? 違う、オレはルシアンのために……」

○○「……アディエルくんを見てると、時々とても不安になります。 ルシアンさんも……私も、アディエルくんが好きだから余計に」

アディエル「へ?」

○○「っ……!」

(わ、私、何言って……)

○○「あ、あの、いい人だと思うっていう意味です。律儀なところも、友達思いなところも素敵です」

勇気づけるためとはいえ、言いながら頬が熱くなってきた。

アディエル「……」

アディエルくんの真っ直ぐな視線が、私に注がれている。

アディエル「本当に無理をしているつもりはないんだ。けど……オレを見ていると辛いのか?」

○○「……はい。いつか、きっとアディエルくんはルシアンさんのために自分を犠牲にしてしまうって」

アディエル「……」

○○「好きな人が自分のために不幸になる……それは、辛いことじゃないでしょうか」

アディエル「……」

泣きそうな顔をする彼の腕に、そっと触れた。

アディエル「ルシアンにも……似たようなこと何度か言われた。でも耳に入れてなかった。 ルシアンの気持ちを……オレが一番近くにいたつもりだったのに、わかってなかった」

○○「大丈夫です……きっと、これからは」

アディエルくんの腕を、なだめるように撫でる。

すると、突然アディエルくんが立ち上がった。

○○「アディエルくん?」

慌てて私も立ち上がろうとすると、彼の手が頭に乗せられた。

アディエル「お前は動くな」

アディエルくんは私の背後にまわって、そこに改めて腰を下ろした。

アディエル「……ごめん、こうさせて」

スチル(ネタバレ注意)

背中がぴったりとくっついて、優しい羽の柔らかさを感じた。

背中から伝わる温かさと鼓動に私の鼓動も煽られていく。

(どうして……いきなり?)

ドキドキしながらも、不思議に思い首を傾げた。

アディエル「まともに顔見ると照れるからな」

○○「……?」

アディエル「ありがとうな……なんか、気持ちがすうっと楽になった。 オレ、○○のことが、結構気に入ったみたいだ」

○○「……っ!」

アディエル「こんな風にオレの気持ちを受け入れてくれて、変えてくれたのはお前が初めてで……。 ○○はオレにとっては特別な女……だ!」

熱のこもった声に、心まで震える気がする。

アディエル「お前のこと、ルシアンに紹介したい。 ……笑ってくれる気がするんだ」

少し控えめな言い方に、体温をあげながら小さく頷く。

○○「はい……」

アディエル「そ、そっか。やっぱりこの姿勢にして良かったな。今のオレの顔、みっともなくて見せられねぇぜ」

○○「……あ」

反射的に見ようと体を動かそうとすると、地面についていた手を、ぎゅっと握りしめられた。

アディエル「だから、ダメだっつっただろ?」

○○「……はい」

頷いたまま感じるのは、背中に、手に重なる心地良い彼の熱……

そんな私達のことを見守って微笑むように、花々が風に揺れていた…-。

 

おわり。

 

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