月SS 甘い痛み

オレは、セロが〇〇に告白をしていたところを見てしまった…―。

(セロの奴、許せねぇ!)

(〇〇に近づいていいのは、オレだけなんだよ!)

目の前にあるバスケットゴールに、力任せにボールを投げた。

だけど、ボールはリングに弾かれて、虚しく宙を舞う。

ウェディ「クソッ……!」

(〇〇も、何でセロと仲良く話してるんだよっ!)

息ができない程に、胸が苦しくなる。

心の中に黒い感情が蠢き、それに抗うことができない。

さっきもつい、〇〇に冷たい態度を取ってしまった。

――――――――――

〇〇「あの……おはよう、ウェディくん」

ウェディ「は?声かけてくんな、バーカ!」

――――――――――

(これが、恋の嫉妬なのか……?)

ウェディ「あああああっー!クソーッッッッ!!」

バスケットゴールに、やみくもにボールを投げてみる。

だけど、シュートは一つも決められない…―。

ウェディ「……」

鬱屈した気持ちは、スポーツでも晴らすことができなかった。

ウェディ「……嫌いになればいいんだ。 そうだよ!〇〇のことが好きでこんなに苦しいなら……嫌いになればいい!」

逃げだとは分かっている。

でも、〇〇を嫌いとでも思わないと、気が狂ってしまいそうだった。

ウェディ「……いや、もう十分狂ってるってか?ハハハッ!」

この時、足元から紫色の霧が立ち上がっていることに、オレはまだ気づいていなかった――。

(最も恐れていたことが起きちまった……)

オレの体から嫉妬の毒気がとめどなく溢れだし、暴走してしまう。

〇〇「ウェディくん!?」

ウェディ「ダ、メだ……来るんじゃねェ!! この毒気は……抑えられねェんだ……っ!」

(オレの力は、なんで大切な人を傷つけちまうんだ……!)

〇〇を見ると泣いてしまいそうで、直視できない。

(オレは、一生恋する資格がないというのか……?)

(愛する人を、この手で抱きしめることができないのか……?)

絶望しながら、オレは必死に〇〇と距離をとる。

けれど、〇〇は躊躇することなく、オレに向かって近寄ってくる。

(えっ……)

〇〇はオレの体を強く抱きしめてくれた。

(〇〇の体……柔らかくて、暖かい……)

(ずっと〇〇とこうしていたい)

(もっと深く、〇〇と繋がりたい……)

ウェディ「っ、……〇〇……、ぐ……ぐあああぁぁああぁぁぁぁぁぁ!!」

(やっぱりオレは、〇〇を嫌いになるなんて無理だ)

苦しみから解放されるかのように、オレの意識は遠ざかっていった…ー。

それから数日後。

今日は、久しぶりにバスケの試合をすることになった。

あの日以来、〇〇は、嫉妬深い俺を優しく受け止めてくれている。

だから、安心して良いはずなんだけど…―。

〇〇「ウェディくん、頑張って!」

(ばっ、あんなに目立ったら他の男に注目されるだろーがっ!)

(〇〇は、ただでさえ可愛いんだから……)

(それに……今日のスカート少し短いんじゃないか?)

(他の奴らに見せたくねー!)

そんなことを考えていると、足元に紫色の霧が立ち上がってくる。

ウェディ「……ヤベっ!」

(落ち着け、オレ!落ち着くんだ!!)

(まずは、試合に集中しろ……!)

心を落ち着かせようと、するけど…―。

……

〇〇「……すごーい!」

ウェディ「!!!!」

仲間の一人がロングシュートを入れた瞬間、〇〇が感心したように息を漏らした。

ウェディ「お前、何ロングシュート入れてるんだよっ!!」

ウェディの友達1「えっ!?」

ウェディ「……いや、ワリぃ。何でもない」

(こいつに八つ当たっても仕方ないよな……)

(クソッ、オレも〇〇にカッコイイ所を見せたい……)

オレは敵からボールを無理やりに奪うと、脇目も振らずゴールへと一直線にダッシュする。

ウェディの友達2「お、おいっ!ウェディ!」

仲間の声も聞かず、そのままオレはダンクシュートをきめた。

〇〇「すごい、ウェディくん!かっこいい!」

(『かっこいい』、だってさ……)

途端にイライラが鎮まっていく。

(オレって、単純なヤツ……)

(あーあ、恋愛の嫉妬ってツライなー)

応援席にいる〇〇をちらっと見る。

〇〇が、満面の笑みでオレに向って手を振っていた。

(ああっ……オレ以外の男の前で、あんな笑顔さらすなって……!)

深いため息が、自然と出てくる。

(マジ、疲れる……)

(でも……)

(〇〇の笑顔……スゲー可愛いな)

初めての嫉妬の感情に振り回されながら、オレは〇〇に手を振り返した――。

 

おわり。

 

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