第4話 初めての……

城の調理場で、料理を始めてからしばらくの後…-。

グラッド「おお……」

こんがりと焼き上がった手製のパンを前に、グラッドくんは目を輝かせた。

グラッド「パンの匂いだったのか」

○○「うん。ちょっと作り過ぎだったかもしれないけど……それに、形もなんだか変だし……」

いびつな形に焼き上がったパンを見て、恥ずかしさに頬を染める。

グラッド「そんなの、別に問題ねえよ」

グラッドくんは、高く積まれたパンの山を、じっと見つめている。

その頬はわずかに上気していて、焼きたてのパンを喜んでくれているようだった。

けれども…-。

グラッド「パンの匂い……初めて嗅いだ気がする。 パンを食べるの、初めてじゃないのに……あんたが作ってくれたパンの匂い……あんたが俺のために……」

○○「グラッドくん?」

グラッドくんは、ぶつぶつと独り言を言い始め、突然、堪らなくなったかのようにぎゅっと目を閉じた。

グラッド「……っ、ただの食べ物なのに……」

○○「え……?」

グラッドくんが突然、椅子から立ち上がる。

そうしてもう一度パンの山を見た後、すぐに勢いよく目をそらした。

グラッド「やっぱり食べられない。無理」

○○「えっ? あ……」

逃げるように立ち去ろうとするグラッドくんを見て私は…-。

○○「待って……!」

私は思わず、グラッドくんの腕を掴む。

けれども……

グラッド「……待っても、食べられない」

苦しげに吐き捨てるように言って、グラッドくんは目を伏せてしまう。

グラッド「……俺が食べ物を食べられない、なんて……。 こんなの、わけがわからない……。だってあんたのこと興味ないし、それにあんたといるだけじゃ腹も膨れない! そのはず、なのに……」

グラッドくんは、再び独り言を言い始め、その表情には困惑の色が浮かんでいた。

○○「……ごめんね、勝手なことして。 少しずつでも、友達になれればって思ったんだけど……」

グラッド「そ、そんな顔するな! 俺が友達になってくれって言ったわけじゃないんだ。 親が勝手に言ったんだし、あんたは、別に……」

グラッドくんは、落ち込む私にそう言った後、悔しげに歯がみする。

そして……

グラッド「……もう、嫌だ」

○○「え……?」

グラッド「何だかよくわからないけど、パンを見た瞬間、ドキドキして……。 それなのに食べられないって思ったら、苛々して……。 こんなのは初めてだし、こんなふうに食い物のこと考えたのも初めてだ……!」

○○「あ……」

グラッドくんは、苦しげにつぶやくと、逃げるように走り去ってしまったのだった…-。

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