第3話 近づいた距離

グラッド王子との晩餐会から、数日…-。

国王様達たっての願いにより、しばらくこの国に滞在することになった私は、友達に……ということもあり、グラッド王子のために何かできないかと頭を悩ませていた。

(せっかくだから、グラッド王子が喜ぶようなことをしてあげたいな)

(何か、食べる以外にも好きなことはないかな)

(食べ物ならきっと、お城にいくらでもあると思うし……)

私は晩餐会で出された大量の料理を思い出す。

そうして、何気なく窓の外を見やると……

○○「あれって……」

グラッド王子が、ぼんやりと中庭を歩いている。

かと思えば、植え込みの葉を手に取り……

口に放り込んだ後、すぐに眉をしかめて吐き出していた。

(お、美味しくなかったのかな。というか……)

(……本当に、食べることが好きなんだな)

(それなら、やっぱり……)

今度はガムを食べ始めぼんやりと風船を作るグラッド王子を見ながら、私は一人頷いたのだった…-。

……

グラッド王子をために料理を作ろうと思った私は、城の厨房を借りた後、早速調理を始めた。

(グラッド王子、喜んでくれるかな)

彼の驚く顔を想像しながら、鼻歌交じりで調理を進める。

すると……

グラッド「ん……いい匂いだな」

○○「っ! グラッド王子!? み、見ないでください」

厨房を覗き込んだグラッド王子の目元を、とっさに両手で覆った。

グラッド「……あんたの手も、いい匂いがする。 何だ、これ」

○○「っ……!」

彼は私の手を掴んだ後、口元へ運び、ぺろりと舐める。

その瞬間、私は驚いて手を引っ込めてしまった。

(び、びっくりした……)

動揺しながらも、料理が見えてしまわないよう、彼の前に立つ。

すると……

グラッド「何を作ってるか見せろ」

彼は私に体を寄せ、後ろにある料理を覗き込もうとする。

○○「あの、ごめんなさい。意地悪してるわけじゃないんですけど……。 グラッド王子のために、料理を作ってあげたくて」

そう言いながら、私は必死に料理を隠す。

すると……

グラッド「俺のため?」

○○「は、はい。食べることが好きみたいですし、そうしたら仲良くなれるかなって……」

グラッド「仲良く……ふうん」

グラッド王子は、印象的な瞳を閉じて何か考えているようだった。

○○「それと、出来るまでは何を作ってるか内緒にしたいんです」

グラッド「内緒に……?」

○○「はい。その、グラッド王子をびっくりさせたくて……」

私がそう言った瞬間、彼の目がわずかに見開かれる。

すると、次の瞬間……

グラッド「わかった、見ない」

グラッド王子は、自分の目をさっと両手で塞いだ。

(グラッド王子……)

私は彼の姿に少し微笑ましい気持ちを覚えながら、調理を再開する。

グラッド「……やっぱりいい匂いだ。クッキーか?」

○○「いえ、違います」

グラッド「うーん……食べ物の匂いをこんなに考えたの初めてだ」

○○「そうなんですか?」

グラッド「ああ。食べ物は……匂いとか関係ない。食べるだけ。 でも……あんたの料理は、気になる」

そこまで言った後、グラッド王子はわずかにうつむく。

○○「……? どうしたんですか?」

グラッド「敬語……いらない」

○○「え……?」

グラッド「あと……王子とか、いらない」

(それって……少しは仲良くなれたって考えていいのかな?)

そう思った瞬間、心の中に温かいものが込み上げ……

○○「うん、わかった。グラッド……くん」

グラッド「……」

私の言葉に、グラッドくんの口元がわずかに綻び、甘酸っぱいような感覚が、胸を満たしていく。

(グラッドくんって、気難しい人かと思ったけど……)

私は少しだけ近づいた距離に、甘くむず痒い気持ちを覚えながら、目隠しをして待ち続けるグラッドくんの傍で、調理を続けたのだった…-。

 

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