月最終話 暴食の果てに

街中でパンを配っていた私は、突然現れたグラッドくんに手を引かれ、城の一角にある彼の部屋へと強引に連れ込まれた。

○○「あ、あの、グラッドく…ー」

グラッド「他の奴にあげていいなんて言ってない。そのパンは、俺のだ」

○○「で、でも……」

グラッド「でもじゃない。俺のだ」

グラッドくんはそう言った後、じっと私を見つめている。

(本当は、食べたかったってこと……?)

(でも、あの時……)

ー----

グラッド「やっぱり食べられない。無理」

ー----

私は、逃げるように立ち去ろうとしていた彼の姿を思い返す。

すると……

グラッド「……さっきは」

○○「え……?」

グラッド「あんたのパン、食べられないって言ったのは……。 食べたらなくなる。それが嫌だった」

○○「え?それって……」

私が問いかけると、グラッドくんは困ったような表情を浮かべた。

グラッド「俺にもよくわからない。……でも。 あんたが俺のために作ってくれたパンが、なくなるって思ったら、どうしても、食べられなかった。 だけど……!」

グラッドくんの瞳に、強い怒りの色が宿る。

グラッド「他の奴らにやるくらいなら、俺が食べる! そのパンは、全部俺のだ!」

困惑しながらも、グラッドくんは強い口調で言い切った。

○○「グラッドくん……」

(まさか、そんなふうに思ってくれていたなんて……)

彼の本心を聞いて、胸の奥に愛おしさが芽生える。

グラッド「……でも、それだけじゃない」

○○「……?グラッドくん?」

グラッド「俺が本当に食べたいのは……。 俺が何よりも食べたいのは……」

○○「え……?」

私が彼の顔を見上げた、次の瞬間…ー。

スチル(ネタバレ注意)

○○「……!」

やや乱暴にベッドの上へと押し倒された後、彼の唇が、私の唇に重ねられる。

○○「グラッド、く…ー」

グラッド「さっきのキスでわかった。 あんたって……食べたくなる。我慢できなくなる。 食べ物より、あんたが作ってくれたパンより……一番、食べたい」

○○「あ……私……」

ベッドの上に組み敷かれたまま、切なげに言われ……

一気に鼓動が早まっていく。

グラッド「あんたが美味しそうだから、悪いんだ」

○○「……っ」

頬をグラッドくんの唇が掠める。

かと思えば、ぱくりと噛んできて……

グラッド「柔らかくて、いい匂い。 このまま、噛み千切りたくなる」

○○「え……?」

グラッド「それくらい、美味しそう」

○○「……っ」

グラッドくんは、食んだ頬に優しくキスを落とすと、唇を首筋へと滑らせ、口づけながら時折歯を立てた。

グラッド「ほんとに食べられないの、もどかしい。 でも……わくわくする」

食欲とは違う、明らかに熱を孕んだ欲に支配された深紅の瞳が、まるで獲物を捕らえた猛獣の目のように鋭く光る。

グラッド「今日は、ずっと独り占めだから。 あんたのこと……俺が、むさぼり尽くすから」

○○「っ……」

本当にむさぼるように、唇を重ねられた。

その激しさに、到底抗えるはずもなく……

グラッド「あんたで……腹いっぱいにしたい。 あんたのことも、満たしてやるから……」

グラッドくんの唇が、弧を描き……

その怪しげな色香に、体がわずかに震える。

(グラッドくん……)

上がっていく熱の中、思わず彼を見つめると、その深紅の瞳には、全てを奪い尽くすかのような底知れぬ欲深さが宿り……

悪魔の瞳に魅了された私は、この身を捧げてもいいと……

そう思ってしまったのだった…ー。

 

おわり。

 

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