足取りの軽い堕天使姿のデネブさんは、私の手をぐいぐい引いて、街へと出る。
街は収穫祭本番を迎えて、今まで以上の賑わいで、メインストリートまで出ると音楽が鳴り響き、人で溢れていた。
デネブ「ふふっ、楽しそう。踊り出したいくらいだね」
(デネブさんなら、この人込みでも華麗にすり抜けながら踊りそう)
想像してくすりと笑みが漏れた時、子ども達が寄ってくる。
お化け姿の子ども「お菓子をくれないといたずらするぞー」
早速、かわいい声で催促された。
デネブ「いいよ! ほら、持っていって。星の国ノーザンクロス特製の黒い羽根キャンディーだよ~」
お化け姿の子ども「わーい」
デネブ「○○ちゃんも、これ渡して歩いて」
デネブさんから、サテン地の巾着袋を渡される。
ずしっと重みを感じるほど、中はお菓子でいっぱいだ。
○○「わかりました」
デネブ「からっぱになるまで配ろーね」
答えるように微笑み合った後、デネブさんはまるで歌うように踊るようにして、お菓子を配っていく。
(楽しいな……!)
私も隣を歩きながら配っていると、あっという間に巾着袋を空にしてしまった…―。
…
……
しばらく二人でお菓子を配り歩いた後……
写真屋「かわいらしい仮装だね! 是非、記念撮影をしないかい?」
不意に声をかけてきたのは、街の写真屋さんだった。
見れば、収穫祭用に飾りつけのしてあるアーチがあって、足元には大きなカボチャが転がっている。
デネブ「いいね! 二人一緒に綺麗に撮ってもらおっ!」
デネブさんは満面の笑みで、まだ戸惑う私をフォトスポットの真ん中へと引っ張っていった。
○○「え、あの……」
デネブ「いいでしょ? 記念だよ。き、ね、ん」
○○「そう……ですよね」
写真屋「では、撮りますよ」
合図と同時に、デネブさんは慣れた手つきでポーズを決める。
一方、私はというと……緊張したまま直立不動で固まってしまった。
(えっと……どういうポーズを取ったら)
デネブ「ほらほら、もっと、魔女っぽい表情しなきゃ!」
デネブさんは緊張する私の脇を、背中側からくすぐった。
○○「!」
体をねじった拍子に、強張りが解ける。
○○「え……こう? ですか?」
それでも私の笑顔は、堅かったようで……
デネブ「んー? 違うかな? いつもはかわいい笑顔見せるくせに~」
○○「えっ……」
ぱっと頬に熱が集まる。
デネブ「もっと自信を持った感じで! ほら、こんな感じ?」
にっと白い歯を見せ、デネブさんは満面の笑みを浮かべた。
○○「こう?」
デネブ「あー、まだまだ硬いよ~。 ハチミツキャンディーみたいに蕩ける笑顔が欲しいんだけどな~」
デネブさんは私の頬に触れて、少しくすぐるように顎へと指先を流した。
首がくすぐったくて、笑みがこぼれてしまう。
○○「は……恥ずかしいです」
ドキドキしすぎて、顔が赤らんでいるのが自分でもわかる。
デネブ「かわいいんだから自信持って! 魔女になったつもりでね」
デネブさんが私の衣装を整えながら、上目遣いに言ってくれて、ようやくこぼれ落ちるように、自然と微笑むことができた。
デネブ「そ! そういう顔! いいね~。 じゃあ、ほら、そのままカメラに向かって笑ってよ。あっちにも僕がいて微笑みかけるようにね」
○○「は、はい」
言われるまま、カメラに向かって笑顔を見せる。
写真屋「二人とも、いい笑顔ですね。撮りますよ」
シャッターがおりる音を聞き終えて、私はふーっと大きな吐息を吐いた。
視線を感じて顔を上げると、満足そうなデネブさんの紅玉の瞳と視線がぶつかる。
デネブ「サイコーの写真が撮れたよ」
○○「衣装がいいからですよ」
デネブ「○○ちゃんの笑顔がよかったからだよ。 僕に微笑むようにって言ったら、想像以上にかわいくなった。 だから、ご褒美」
すっとデネブさんが天使のように優しい顔を近づけ、一瞬、周囲の雑踏の音が消える。
高鳴る鼓動の合間に、デネブさんは私の目元へとついばむような淡いキスをした。
デネブ「……楽しいね♪」
その無垢な口づけの音が、私の耳にいつまでも残っていた…―。
おわり。