月SS 堕天使の微笑み

多くの人で賑わう、収穫祭の夜…-。

僕は○○ちゃんの手を引き、会場に設けられたステージの上へと向かう。

すると……

(……あれ?)

○○ちゃんの体が、少し震えている。

(怖いのかな? まあ確かに、音楽やセットも結構ホラーな感じだし……)

(皆の仮装も、結構本格的だもんね)

そう思った瞬間、○○ちゃんが僕の方へと振り返った。

その瞳は、どこか縋るようで……

(……大丈夫、怖くないよ)

○○「え……っ」

僕は彼女の腰のあたりに手を回した後、そっと抱き寄せた。

すると……

○○「……恥ずかしいです」

○○ちゃんはそう言いながら、目を伏せてしまう。

(……まったく。本当に可愛いなぁ)

(だけど、そんな顔されると……)

安心してもらいたくて抱きしめたはずなのに、僕の心は、愛おしさと悪戯心に支配されてしまい……

デネブ「僕は堕天使だから、恥ずかしいだなんて思わないんだよ……それに。 君に恋したから僕は天使でいられなくなっちゃったんだよ? 憐れと思ってるなら、慈悲をちょうだい」

僕は○○ちゃんを見つめて囁いた後、周りの人々の視線に構うことなく、その柔らかな唇に口づけした。

○○「デネブさん……あの……」

唇を離すと、彼女は頬を赤らめながら呆然としていて……

そこにはもう、恐怖の色は少しも残っていなかった。

(……結果オーライ、かな?)

我ながら都合のいいことを思いながら、○○ちゃんの表情に安堵する。

けれども、加速してしまった愛おしさと悪戯心は、まだまだ満たされず……

デネブ「ねえ……その身を僕に……。 ほら、君は魔法をかける魔女……もっと僕を虜にしてくれなきゃ。 ……それとも……君の方が、僕に魅入られちゃったのかな?」

○○「え……っ」

幻想的な灯りが滲む中、戸惑いの表情を浮かべる○○ちゃんを、じっと見つめ……

僕はもう一度、彼女に唇を重ねた。

(……○○ちゃん)

唇が触れた瞬間、胸に甘い痺れが走る。

けれども僕は、決してその胸の内を悟られないように……

デネブ「これくらいで満足しないでよ。夜はまだ始まったばかりなんだからね」

○○ちゃんから唇を離した後、どこか蕩けたような表情を浮かべる彼女の髪を、そっと撫でる。

そうして、彼女の瞳を覗き込んだ時…-。

デネブ「ねえ。君は、僕とどんな夜を過ごしたい?」

○○「……っ」

○○ちゃんの瞳が、切なげに揺れる。

けれども僕は、あくまで気づかないフリをして、答えを促すように彼女の瞳を見つめ続けた。

そうして、長い長い間の後……

○○「……デネブさんは、ずるい……です」

デネブ「うん。僕は堕天使だからね♪」

消え入りそうな声で答えてくれた○○ちゃんに、僕は満面の笑みを浮かべながら答える。

そして……

デネブ「それで……答えは?」

僕は○○ちゃんの顎に手を添えた後、彼女の顔を、半ば強引にこちらへと向けて瞳を覗き込み……

デネブ「僕と……どんな夜を過ごしたい?」

魔法のような夜へと彼女を堕とすかのように、そう問いかけたのだった…-。

 

おわり。

 

<<月最終話