月SS 貴女との約束

俺が兵を率いて遠征に出てから、数日後…ー。

カリバーン「だから言ったでしょう? 危険な場所だと」

モンスターの遠吠えに脅える彼女に、つい冷たく言い放ってしまう。

○○「すみません……お手伝いしたいと思ったのに、逆に迷惑を……。 でも……」

(……?)

彼女は震える手を握りしめて、俺の顔をまっすぐに見つめた。

○○「無事でよかったです……カリバーンが大怪我でもしていたら、どうしようって……」

カリバーン「……!」

(貴女は、なぜ……)

(それだけ危険だとわかっておきながら、どうして……!)

苛立ちが、自分でも制御できないほどに膨らんでいく。

○○「カリバーン……?」

カリバーン「……くそっ!」

何かが、俺の中で弾け飛んだ。

○○「……!! カリバー……んっ」

気づくと、俺は彼女を草の上に押し倒した後、手首を押さえつけながら強引に唇を奪っていた。

○○「カリバーン……っ!」

カリバーン「黙って」

角度を変え、さらに熱い口づけを与える。

(○○……)

欲望のまま、すべてを求めるかのように口づけると、彼女は俺を押し返そうと、ささやかな抵抗を見せた。

(……身勝手だな)

(こんなことをしておいて、拒まれると傷つくなんて……けれど)

カリバーン「○○、俺を拒むんですか……?」

口づけをやめた後、拒否は許さないとでも言うように、彼女に問いかけてしまう。

すると…ー。

○○「ちが……」

(っ……!?)

彼女の瞳に浮かんだ涙に気づいた瞬間、はっと我に返った。

(俺は、なんてことを……!)

後悔の念を覚えると共に、彼女の手首を掴む指からそっと力を抜いた。

カリバーン「すみません……○○が心配して、ここへ来てくれたことはわかっているんです」

(視線を……合わせられない)

俺は目を伏せながら、草の上に組み敷いた彼女を抱え起こす。

カリバーン「……討伐作戦が上手くいかず、救援頼みという現状に、かなり焦っていました。 だから貴女を迎える余裕を持てなくて……。 その苛立ちをこんな形で貴女にぶつけてしまった……」

(本当に最低だ。一国の王子ともあろうものが、こんな……)

辟易するような言い訳をする自分を、心の中で強い叱責する。

けれども……

○○「私の方こそごめんなさい……来るべきではありませんでした」

カリバーン「……」

あくまで俺を責めようとはしない彼女に、そっと視線を向ける。

(純粋な瞳だ……本当に、俺のことを想って)

そして、少しの間の後…-。

カリバーン「○○……乱暴にしないので、抱きしめてもいいですか?」

○○「え……」

俺の問いかけに、○○は戸惑いながらも頷いてくれて……

そんな彼女を壊してしまわないよう、そっと体に腕を回した。

(温かい……)

彼女の体温を感じるほどに、心を支配していた苛立ちが消えてゆく。

そして……

カリバーン「貴女には安全な場所にいてほしい。でも、本当は顔が見れて嬉しかったんです」

○○「カリバーン……」

カリバーン「それなのに貴女を怯えさせるようなことをしてしまい……。 自分の不甲斐なさに腹が立ちます」

ぽつりぽつりと本心をさらけ出す俺の目を、○○がそっと覗き込み……

そんな彼女の目を見つめ返しながら、俺はなおも言葉を紡ぐ。

カリバーン「出発の時……俺を案じる貴女の顔を見て、今までにない気持ちが胸に生まれました」

ー----

カリバーン『……』

○○『カリバーン?』

カリバーン『いえ……。 わかりました、約束します。 必ず討伐を成功させ、無事に戻ってみせます』

ー----

カリバーン「……必ず無事に、一刻も早く貴女の元へ戻らないとと思い、焦ってしまって……。 結局、その約束も果たせていない……」

自嘲気味にそう言うと、俺の目を見つめていた○○が口を開く。

○○「……私は、カリバーンの力になりたくてここへ来たんです。 だから、あなたのためにできることはなんでもしたい」

(……っ)

カリバーン「○○……」

(貴女は、なんて優しくて……そして、強いんだろう)

カリバーン「ありがとうございます」

俺は彼女の体を強く引き寄せ、その肩に顔を埋めた。

(……こうしていると、安心する……

(まるで、心の不安がすべて溶けていくような……)

カリバーン「しばらく……このままで」

○○「はい……」

俺の不安を落ち着かせるように体へと回された手に、そっと身を預ける。

(○○……)

(初めてだ。こんな気持ちは……)

生まれてこの方、身内以外はどこか信用しきれずにいた自分が、これほどまでに心を許せる他人は、初めてで…ー。

(こんなにも、安らぐものなんだな……)

(俺は……)

カリバーン「必ず……貴女と無事に帰る……」

(誰よりも大切な貴女と、一緒に……)

つぶやくように吐き出した俺の言葉に、彼女は深く頷いてくれる。

夜空では、星々が俺達を見守るかのように、優しく瞬いていた…ー。

 

おわり。

 

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