月7話 前線基地へ

伝令からの報告を聞くため、私は国王様と共に謁見の間へとやって来た。

室内に流れる空気は重苦しく、慌ただしく出入りする重鎮たちの顔つきも険しい。

伝令「現在討伐部隊は別種の大型モンスターによる急襲を受けております。 そのため支援物資と増援の要請をお伝えに上がりました」

国王「そうか……最悪な報告ではなかったものの、安堵できるような事態でもないな」

(最悪な報告……)

国王様が口にした言葉の意味を理解して、私はぞくりと身体を震わせた。

不安な気持ちが膨れ上がり、胸が痛くなる。

(このままここで彼の帰還を待ってるだけなんて嫌……)

○○「国王様、私にも何かお手伝いをさせてください」

国王「姫……それはならん。前線は危険な場所だ」

○○「わかっています。でも……」

国王「……カリバーンを案じてくれているのだな」

○○「はい……」

国王「……」

国王様は、難しい顔つきでしばらく考え込んでいたけれど…

国王「それでは姫には、救護担当の部隊に同行していただこう」

○○「……ありがとうございます!」

国王「カリバーンの言うた通りじゃな」

○○「え……?」

国王「いや……普通の姫とは少し違っていると」

○○「カリバーンが……」

深く息を吐き、国王様が兵士の方達に声を上げる。

国王「姫の護衛を手厚くせよ。傷ひとつ負わせるな!」

兵士「はっ!」

国王「姫……息子のことを、よろしく頼みます。 息子は強いが、それ故、追いつめられると脆い部分もある……どうか……」

○○「……! はい、必ず……!」

同行の許可を得た私は、部隊と共にすぐ城を発った…-。

……

半日かけて前線の基地に着いた私達は、まず救援物資の運び込みをすることになった。

兵士の方達に紛れ、手伝いをしていると……

カリバーン「○○……!?」

名前を呼ばれ、慌てて顔を上げる。

カリバーンの姿を見て安堵したのも束の間、彼は眉根を寄せて険しい表情を浮かべていた。

(カリバーン? なんだか様子が……)

○○「カリバーン、どこか怪我でも……」

カリバーン「こちらへ」

○○「……!」

唐突に手首を掴まれ、有無を言わせない力で連れて行かれる。

戸惑いながらも、もつれる足で後を追うと、人目を離れた場所まで来た瞬間、岩壁に押し付けられた。

○○「痛っ……」

衝撃に声を漏らしてしまうけれど、カリバーンは厳しい視線を私に向けたままだった。

カリバーン「なぜこんな場所へ来たんですか。 俺は城で待っていてくれと言ったはずです」

怒りをたたえた声色に、体が竦んでしまう。

○○「ごめんなさい……」

カリバーン「ここがどれだけ危険な場所か、わからないわけではないでしょう」

○○「カリバーンのことが、心配で……」

カリバーン「……っ」

カリバーンは厳しい表情のまま、黙り込んでしまう。

カリバーン「……基地の中にいて、絶対に外へは出ないようにしてください」

カリバーンは掴んでいた手を離すと、背を向け去って行ってしまった。

(どうしよう……怒らせちゃった)

(私が、浅はかだったんだ……)

落ち込んだまま動けず、立ち尽くしていると……

看護師「姫様……すみません、声が聞こえてしまって……大丈夫ですか?」

ここまで同じ馬に乗せてくれた看護師の女性が、心配して歩み寄ってきてくれる。

○○「はい……私、余計なことしちゃったみたいですね……」

看護師「……戦況が悪いので、苛立ってしまわれているのかもしれません。 ですが、カリバーン様は姫様のことが心配で仕方ないのだと思います。どうか元気を出してください」

○○「ありがとうございます」

なんとか彼女に微笑み返し、二人で一緒に基地の中へと戻る。

けれど…-。

その後もカリバーンとは話す機会が持てないまま、時間だけが空しく過ぎていった…-。

 

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