月SS お洋服の力

○○ちゃんに、衣装のアイデアを一緒に考えてもらった後…-。

(決めた……ボクは、悪魔の仮装にしよう)

(お父さまみたいに、強くなりたい……!)

そう決意して、ボクはぎゅっと掌を握りしめる。

(けど……どうやって衣装を手に入れよう……)

次の問題にぶつかって、ボクはまた頭を悩ませた。

(お母さまに相談……? ううん、きっと悪魔じゃなくてかわいらしい衣装になっちゃうよね)

(お父さまに相談……? だ、だめ……怖すぎて……)

いい案が思い浮かばず、また涙が込み上げてくる。

(いけない……せっかく○○ちゃんと決めたんだから)

(ちゃんと、○○ちゃんが驚くような衣装を……自分で用意しなきゃ……)

ボクは、そう自分に言い聞かせた…-。

……

…………

けれど…-。

ロルフ「どうしよう……」

収穫祭を前に、ロトリアのお城の人達は大忙しで、誰にも相談することができないまま、いたずらに時間だけが過ぎていった。

ロルフ「う……明日はもう、収穫祭当日なのに……このままじゃ……」

情けなさに、また目がしらが熱くなる。

(だめ……泣いちゃだめ)

(なんとか……なんとかしないと……)

気持ちを落ちつけようと、お外に出る。

ロルフ「あ……」

バルコニーから下をのぞくと、中庭で数人の男性が話していた。

ロルフ「あれは……ウィル王子」

今回の収穫祭のために呼ばれた、映画の国のウィル王子が、ロトリアの大臣達と何かを真剣に話していた。

(……ウィル王子、怖いのにするって言ってたから、ボク、ほんとは嫌だったけど……)

(でも……悪魔だったら、怖いほうがいいんだよね……)

そう思ったボクは、弾かれたように中庭へと向かった…-。

……

…………

翌日の朝…-。

昨日の夜、ボクのことを知ったウィル王子は、朝までに衣装を用意しておくと言ってくれた。

ロルフ「あの……ウィル王子……」

小鳥達がさえずる朝早く、おそるおそるウィル王子が滞在しているお部屋をノックする。

ロルフ「……」

けれど中から返事はない。

(ま……まさか、間に合わなかったのかな……・? ウィル王子も忙しそうだったし……)

(どうしよう……どうしよう……!)

??「ロルフ様」

その時、焦りで涙目になっているボクに、侍従さんから優しい声がかけられた。

侍従「ウィル王子は、ちょっと現場でトラブルが起きたと、早くに出て行かれました」

ロルフ「そ、そんな…-」

侍従「ご心配には及びませんよ。ウィル様が、これをロルフ様にと」

侍従さんが優しく微笑んで、持っていた包みをボクに渡してくれる。

ロルフ「これは……」

侍従「はい、ロルフ様の仮装用の衣装です」

(間に合った……!)

安心して、体から力が抜けていく。

ロルフ「あ……ありがとうございます!!」

ドキドキしながら包みを開けてみると、衣装と一緒にお手紙が添えられていた。

ロルフ「これは……ウィル王子から?」

――親愛なるロルフ王子。君の話を聞いて、僕なりに考えた結果この衣装を贈ることにする。

前に僕の映画で使った、悪魔の衣装だ。そのまま贈ろうと思ったんだけど、ちょっとアレンジしてある。

君の姿を見たスタッフが、可愛いのがいい!って言って……いや僕は、もっと怖いのがいいんだけど。

だから、人を恐怖させるにはちょっと物足りない。まあでも、受け取ってくれるかな。 ウィル――

ロルフ「ウィル王子……」

そしてボクは、やっと手に入れた衣装をまじまじと見る。

(こ……これをボクが……!?)

(つのに……しっぽに……ヤリ? 確かに、悪魔だけど……)

お母さまに選んでもらった服ばかり着ていたボクは、戸惑った。

ロルフ「……」

(や、やっぱり無理! こんな衣装、ボク似合わない……)

―――――

○○「ロルフ君の仮装を見るのが楽しみだな」

―――――

(○○ちゃん……)

昨日一日、ずっとボクに付き合ってくれた○○ちゃんの笑顔を思い出す。

(○○ちゃんに……かっこいいって、言って欲しい)

ぎゅっと衣装を抱きかかえて、ボクは自分のお部屋へと歩き出した…-。

ロルフ「……わ……」

鏡に映ったボクは、まるで別人のようだった。

ロルフ「悪魔……」

もう一度その言葉を、口にしてみる。

すると、なんだか胸がドキドキしてくる。

(不思議だな……お洋服を変えると、気持ちまで変わっちゃうなんて)

高鳴る胸のリズムに合わせるように、ボクはそっとつぶやいてみる。

ロルフ「○○ちゃん。ボクと一緒に踊ってくれますか?」

こんなに芯のある、通った自分の声を聞いたのは初めてかもしれない。

ロルフ「……」

呆然としていると、時計が鐘を鳴らした。

(いけない、もうこんな時間……○○ちゃんとの待ち合わせに遅れちゃう!)

(早く、○○ちゃんにこの姿を見てもらおう……!)

いろんなことがあった、収穫祭の準備……

なんだか少し大人になれた気がしたボクは、弾む足取りで、○○ちゃんの元へ向かったのだった…-。

 

おわり。

 

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