第3話 私の提案

くんくんと香りを嗅ぎながら、ネペンテスさんは迷うことなく厨房に到着する。

(香りだけで、よくわかるなあ……)

ネペンテス「ここからですね。ロトリアの宮廷料理でしょうか、変わった香りが……」

厨房の中からは、確かに香ばしいような苦々しいような、不思議な香りが漂っている。

すると……

コック「おや。ご招待のお客様ですか?」

恰幅のいい料理人さんが、厨房の中から顔を出した。

ネペンテス「ええ、そうです。今は何の料理を?」

コック「収穫祭のメニューを試作中です。ウィル王子から頂いたテーマに合わせてつくっています」

コック「よければ、味見していかれますか?」

ネペンテス「良いのですか! ぜひ、いただいてみたいです」

ネペンテスの瞳が、期待に輝きを強くする。

けれど、コックから試食品を受け取り口にしたネペンテスさんは……

ネペンテス「……」

(ま、また無表情に……)

ネペンテス「……ありがとうございます。では」

コック「え? 感想はないんですかい?」

ネペンテス「……ごちそうさまでございます」

ネペンテスさんは、放心状態のような様子で、ふらふらと廊下を歩いていく。

○○「あの……ネペンテスさん、大丈夫ですか?」

ネペンテスさんと並んで歩きながら、彼の様子をうかがった。

ネペンテス「……」

けれど、彼は何も答えずに、青ざめた顔で首を振るばかりだった。

長い廊下をふらふらと歩き続けて、城の出口まで来てしまった時、ようやくネペンテスさんは我に返ったように、目の光を取り戻した。

○○「あの……大丈夫ですか?」

ネペンテス「……衣装を受け取るのを忘れていました。 ああ、それから、私は大丈夫です。何も問題ありません。ええ、そうですとも。そうですとも……」

(ネペンテスさん、やっぱり変だよね……?)

○○「あの、美味しくなかったんですか?」

ネペンテス「っ! ……私の記憶から抹消しようとしていました」

ネペンテス「ですが……あまりに無個性でした……美味しい不味い以前の問題です」

ネペンテスさんが、がっくりと肩を落としてしまう。

(そんなこと……)

ネペンテス「この国には個性的な美食なるものなど、一つもないのでしょうか。 はあ……こんなことなら、もう食事をしなくても良いゾンビにでも仮装する他…-。 いやいや、ゾンビだって食事するじゃないですか!」

ネペンテスさんは、今度は頭を抱えて叫び出す。

○○「あ、あの、ネペンテスさん。私に案があるんです」

ネペンテス「案……ですか?」

ネペンテスさんは、悲しげな眼差しをこちらに向けた。

○○「ネペンテスさんなら、いろんな国の食事をご存知ですし。 自分で美食を作ってみるというのは、どうでしょうか?」

ネペンテス「私が、自分で……?」

○○「はい、そうです。 ないのなら、自分で作って楽しんだらいいんじゃないかと思いました」

ネペンテス「私は、あくまで食したいのです。作りたいのではありません」

○○「でも、ネペンテスさんが今まで味わった料理の全てを結集したら、それは何よりも……」

ネペンテス「美食とはシェフの腕前も含めてのもの。完成されたそれを求めることが、私にとっての探究なのです」

ネペンテスさんにピシャリと言い切られてしまい、言葉を失う。

ネペンテス「おや……何故そのように落ち込んでいるのですか?」

ネペンテスさんが、心底不思議そうに私の顔を覗き込んでくる。

○○「いえ……すみません」

ネペンテス「……まあ。 せっかくの収穫祭です。それに、これだけ多くのかぼちゃが街にあることですし。 あなた様がそこまで言うのなら、作ってみましょう」

○○「っ! 本当ですか」

ネペンテス「ですが! あなた様には必ず召し上がって頂きますよ。 やるからには、最高のおばけカボチャ料理を作って差し上げましょう」

(おばけカボチャで作るのか……)

少し不安も感じたけれど、笑顔になったネペンテスさんを見て、提案してみて良かったと、強く思ったのだった…-。

 

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