第4話 指先から……

藤目さんとの、疑似夫婦生活が始まった…-。

小さな家の中に、良い香りが広がっている。

(藤目さん、まだかな……)

オムライスを作っていた私は、後は卵で包むだけ、というところまで料理を終えて、藤目さんの帰りを待っていた。

すると…-。

藤目「○○さん、これで足りますか?」

勢いよく扉が開き、藤目さんが両手いっぱいに卵を抱えて帰って来る。

〇〇「こ、こんなに使いません」

藤目「そうなんですか……どんな卵がいいのかわからなかったので、街中のお店をまわったんですよ」

貼ってある値段を見ると、どれも卵とは思えないほどに高価なものだった。

(どこまで行ってくれたんだろう……)

藤目「そうだ、テーブルを拭くんでしたよね」

そう言って、藤目さんは、テーブルを不器用に拭きはじめた。

(何だか、可愛い……)

こみ上げる笑いをこらえ、私はオムライスの仕上げに取りかかった。

ふと見ると、藤目さんはお行儀よくテーブルについて私を見つめている。

〇〇「さあ、できましたよ」

お皿を置くと、藤目さんの瞳がパッと輝いた。

〇〇「お料理したの久しぶりで、自信がなくて……お口に合うといいんですけど」

藤目「久しぶりとは思えない手際の良さでしたよ」

私が席につくと、藤目さんはにっこりと笑う。

藤目「では、いただきますね。奥さん」

そう言ってスプーンを手にした藤目さんは、次の瞬間動きを止めてしまった。

〇〇「どうしたんですか?」

藤目「ハートマークがない……」

〇〇「え?」

藤目「何かで読んだことがあります。オムライスにはトマトソースでハートマークが書いてあると」

(どこでそんなもの……)

おかしさがこみ上げて笑ってしまう。

藤目「確かに読んだ記憶があるのですが」

そう言って、藤目さんは私に笑いかけた。

〇〇「ハートマークですね、ちょっと待ってください」

笑いながらそう言って、私はハートマークを描き始めた。

(あれ、けっこう難しいな……上手に描けない)

苦戦する私を、藤目さんがニコニコと笑いながら見守っている。

(できた……けど)

何とかハートに見えないことはないけれど、

お世辞にもきれいとは言えないハートが描き上がった。

藤目「……素晴らしい」

〇〇「え?」

藤目「新妻の初々しさを感じますね」

私を見つめる彼の瞳はどこか愛おしげにも見えて、思わずまつ毛を伏せる。

(ちょっとハートが上手に描けなかっただけなのに)

〇〇「ゆがんでしまってすみません……」

少しだけ、拗ねたような声が出てしまった。

藤目「ああ、拗ねないで……」

藤目さんは私の頬にそっと指先を触れる…-。

嬉しそうに笑う藤目さんと目が合って、頬が染まるのがわかった。

〇〇「……っ」

思わず、藤目さんの手から逃れるように顔を背けると……

藤目「……?」

藤目さんは、不思議そうに、私の頬に触れた指を見つめた。

(藤目さん……?)

藤目「……この気持ちは……」

爽やかな風が、窓から部屋に拭きこんだ…-。

 

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