月最終話 盾を擁する王子の名において

私の目の前に立ちはだかったモンスターが、前足を振り上げる。

プリトヴェン「○○……!!」

思わず目を閉じたけれど、なぜか衝撃は訪れず……

○○「……?」

恐る恐る開けた瞳に映ったのは、私をその背にかばい、盾で攻撃に耐えているプリトヴェンさんの姿だった。

○○「プリトヴェンさん……!」

離れた場所から駆け付けたせいで、プリトヴェンさんは盾をしっかり構えられずにいる。

モンスター「ギィアアアッッ!!」

雄叫びを上げながら、モンスターがプリトヴェンさんを殴り飛ばす。

プリトヴェン「……くっ」

地面に倒れ込んだ彼は、血のついた口元を拭いながら立ち上がった。

プリトヴェン「やってくれるじゃないか……」

モンスターは威嚇するように背を反らし、再びプリトヴェンさんに向かっていく。

プリトヴェン「……来いよ」

殺気だった瞳を細め、低く身構えたプリトヴェンさんが、モンスターの懐に飛び込んでいく。

ぎりぎりのタイミングで彼が盾を薙払うと、モンスターは持ちこたえられずに、勢いよく弾き飛ばされた。

○○「……!」

倒れ込んだモンスターは失神したようで、ピクリとも動かない。

(倒した……?)

プリトヴェン「○○……」

肩で息をしながら、プリトヴェンさんが私を振り返る。

駆け寄ろうとした私は、彼の真っ青な表情を見て、思わず足を止めた。

(プリトヴェンさん……?)

そんな私達の間に、わっと兵士達が駆けつけてきた。

プリトヴェンさんはそのまま、部下への指示に追われ、結局私達は会話を交わすことはできなかった…-。

モンスターが討伐されたあとすぐ、私が追いかけた女の子は無事だったことがわかった。

プリトヴェンさんは傷の手当てもしないで、事後処理にかけずり回っていた……

夜、私の部屋を訪問してくれたときも、プリトヴェンさんの痛々しい傷はさらされたままだった。

○○「少し、染みるかもしれません……」

ソファーに並んで座り、彼の顔を覗き込む。

口元に出来た傷に、そっと消毒液のついた綿をあてると……

プリトヴェン「……っ」

○○「あっ、すみません」

プリトヴェン「いや……」

小さく首を振ったプリトヴェンさんが、そのまま黙り込む。

(……目を合わせようとしてくれない)

うつむいたままの彼の様子を見て、胸がちくりと痛む。

(……避難してって言われてたのに、勝手な行動を取ったから、怒ってるのかな)

○○「あの、プリトヴェンさん……ごめんなさい」

プリトヴェン「……え?」

○○「言うことを聞かず、そのせいで危険な目にも遭わせちゃって……怒ってますよね」

プリトヴェン「! いや違うんだ……君に怒ってるわけじゃなくて…。 腹が立つのは自分に対してだ」

○○「自分……?」

プリトヴェンさんが、悔しげに表情を歪める。

プリトヴェン「俺は……ちゃんと君を安全な場所まで送り届けなかった。 俺が判断を誤ったから、君を危険にさらしてしまった。 あの時、君から離れるべきじゃなかった……」

○○「違います、プリトヴェンさんのせいなんかじゃ…-」

けれど彼は眉根を険しく寄せ、唇を噛みしめる。

せっかく乾き始めていた口元の傷が、また赤くなってしまう。

○○「プリトヴェンさん、傷が……」

言いながら伸ばした手を急に掴まれ、グッと強い力で、彼のほうへ引き寄せられた。

○○「え……?」

スチル(ネタバレ注意)

驚きの声はそのまま、プリトヴェンさんの唇に飲み込まれてしまった。

○○「……っ……」

命の味がする熱い口づけは、私を翻弄しながら長く深く続く。

意識がぼんやりする頃、やっと唇は解放されたけれど、代わりに今度は彼の腕の中に抱き寄せられた。

プリトヴェン「○○が大事なんだ……想いが止まらない……」

(プリトヴェンさん……)

プリトヴェン「おかしいって思う? だって出会ったばかりなのに……けど。 君をひと目見たときから、俺は……」

切なく響くその声色から、彼が心から私を想ってくれていることが伝わってくる。

プリトヴェン「……もう二度と、君を危険な目には遭わせない。 盾を擁する王子の名において誓う。だから……。 どうか傍にいさせてほしい……」

熱い声が、耳元に響く…-。

凛々しく、強く……そして情熱的な彼の想いが、私の心を揺さぶる。

その想いに答えるように、私はそっと彼の背に腕を回したのだった…-。

 

おわり。

 

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