桜花さんに手当てをしてもらった傷口が、熱を帯びる…―。
桜花「包帯、きつくないですか?」
○○「はい……大丈夫です。桜花さんの方こそ、体調は大丈夫ですか?」
桜花「あなたは優しい人ですね。自分の怪我より私を心配してくださるなんて」
○○「そんなことないです……」
桜花「あなたはご自分のことを、わかっていらっしゃらない」
窓の外から、温かい陽射しが差し込んでくる。
桜花「庭へ行きませんか?こんな日は花に集まる蝶が美しいのです」
様子を静かに見守ってくれていた従者の方が、口を開く。
従者「桜花様……」
桜花「……すぐに戻る」
○○「桜花さん……無理しないでください」
桜花「私は大丈夫です。あなたのお怪我が大丈夫でしたら、ですが」
桜花さんが、困ったように笑う。
○○「……私は、大丈夫です」
桜花「そうですか。よかった」
桜花さんは私の肩を抱えて、立たせてくれる。
その瞬間、桜花さんの顔が近づいて…―。
(やっぱり、綺麗な顔……でも)
(どうしてだろう……すごく、儚げに思えて)
胸が苦しくなって、桜花さんの顔を見つめてしまう。
桜花「どうかされましたか?」
○○「……いえ、何でもありません」
(何だろう……この気持ち)
庭に降り注ぐ太陽の光が、私達を優しく包み込む…―。
桜花「あの大きな木の下で休みましょう」
中庭の中央に生えている大きな木の下で、私達はのんびりとした時間を過ごす。
(桜花さんの言った通り、蝶が綺麗……)
色鮮やかな蝶たちが、花の上をひらりと舞い、見ているだけで、とても穏やかな気持ちになった。
桜花「どうしても、あなたとここでお話がしたかった」
不意に、桜花さんが口を開いた。
桜花「花は、いずれ枯れるとわかっていても美しく咲き誇る。 蝶は、その蜜を吸い、お礼に花粉を運ぶ。そうやって儚い生を繋いでいく……」
静かに差し出された桜花さんのしなやかな指に、一匹の蝶が静かに留まる。
桜花「私も……花のように、咲かせたいと、思ったのです」
○○「桜花さん……?」
(何の話をしているの?)
不思議そうな私に気づき、彼は安心させるように微笑んだ。
でも、その笑顔はやっぱり儚げで…―。
桜花「○○さん……」
指先から離れた蝶が、音もなく飛んでゆく。
気がつくと、桜花さんの指先は私の頬に触れていた。
○○「……っ!」
思わず目を伏せてしまう。
(心臓が、うるさい……)
桜花「私は、そんなあなたが……」
囁きとともに、美しい顔が近づいてくる。
(桜花さん……っ)
ぎゅっと目を閉じた時…―。
肩に、重みを感じた。
○○「……桜花さんっ!!」
桜花さんは私の方に力なくもたれかかり、青白い顔で息を荒げていた。
○○「す、すぐに人を呼んできます!」
静かに桜花さんを横たえて、立ち上がろうとした時だった。
○○「……!」
桜花「行かないで……ください…」
背後から抱きしめられ、耳元で囁かれる。
桜花さんの鼓動が背中を伝って直接響いてくる。
桜花「初めてお会いした時から……私は……いけないことだと、知りながらも……」
私を抱く手に、力がこもる。
苦しげにそう言った途端、桜花さんの体からゆっくりと力が抜けていく。
○○「……桜花さん?桜花さん…っ!!」
私の叫び声が、城中に響き渡っていた…―。