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○○「あの、桜花さん。紫珠さんと何かあったのですか?」
桜花「……何も?」
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その桜花さんの様子に、それ以上私は何も言うことができなかった。
用事も終えて、私達は再び城へと歩みを進めていた。
途中の市街地で、桜花さんと商店に立ち寄ろうとした時……
○○「……っ!」
突然、私は何者かに背後から羽交い絞めにされ、動きを封じられてしまった。
桜花「○○さん!?」
(誰……!?)
恐る恐る目線を背後へやると、何かに怯えたような表情をした男性がいた。
桜花「……○○さんを放してください」
町人1「か、金を出せ!」
攻撃的な言葉とは裏腹に、男性の体は小刻みに震えている。
(この人……?)
桜花「……話は聞きます。まずは、彼女を放してください」
町人1「……!!」
男性の震えは、ますます大きくなっていく。
(どうしよう……何かして、逆に桜花さんに迷惑がかかる事態になったら……でも)
私を拘束する腕に手を触れると、びくっと男性が肩を震わす。
○○「あの、事情を聞かせていただけないでしょうか」
明らかに戸惑い、迷っている様子が伝わってくるけれど……
町人1「……」
しばらくすると、ゆっくりと男性は手の力を緩めた。
桜花「……!」
瞬間、桜花さんが私の腕を強く引き、守るように背に隠す。
桜花さんは男に厳しい視線を向け…―。
○○「桜花さん、待ってください!」
桜花「○○さん?」
○○「……何かあったのですか?」
私は男性に話しかけた。
町人1「嫁が……病気で金が必要なんだ」
○○「そうだったんですか」
私は、持っている硬貨を集めて、男性に近寄った。
桜花「○○さん!」
○○「大丈夫です」
心配そうな桜花さんに微笑みかける。
○○「どうぞ。少しでもお役に立てればいいのですが……」
町人1「……」
男性は、私の手から硬貨をすべて持って立ち去って行った。
桜花「○○さん、むちゃしないでください……!」
○○「ごめんなさい。でも、きっと、悪い人じゃ……」
町人2「あいつ、確か嫁さんなんていませんよ」
○○「えっ……」
町人3「盗人の下っ端の奴です。全くあいつは……」
○○「嘘だったんですね……」
(馬鹿だ……私)
がっくりと肩の力が抜けていくことがわかる。
(けれど、あの震え方……何か事情があったことは確かだと思う)
そんなことを考えていると、桜花さんが私をじっと見つめてきた。
桜花「彼を、恨まないんですか?」
○○「え……?」
桜花「信じた人に裏切られたら、誰しも憎しみの心を持つはずです」
(……呆れられたのかな)
桜花「……○○さんは、優しすぎます」
桜花さんは、そう言いながら視線を地面に落とした。
その時…―。
再び水滴が、私の頬に落ちてきた。
桜花「雨ですね。傘が役に立ってよかった。 急ぎましょう。○○さん……怖い思いをさせてしまいました」
小雨の中、私達は城へと急いだ…―。
城につくと、従者の方達の歓迎を受けた。
従者「ようこそいらっしゃいました」
○○「お世話になります」
従者の方に挨拶を終えた、その時…―。
桜花「……っ」
唐突に、桜花さんが苦しそうに咳き込んだ。
○○「大丈夫ですかっ……!?」
思わず触れた桜花さんの手の冷たさに、私は息を呑んだ。
桜花「だい、じょうぶ……です……」
苦しそうに微笑み、そう答えた瞬間だった。
○○「……桜花さんっ!」
ふっと、桜花さんの体から力が抜ける。気を失った彼の体を支えながら、私は何度も名前を呼んでいた…―。