第3話 藍紫色の呪術師

桜花さんの髪に落ちた桜の花びらを取ろうとした時…―。

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桜花「……何でしょうか?」

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(あの時の表情は……)

桜花さんはすでに明るい表情を取り戻していて、私に微笑みかけてくれる。

桜花「申し訳ありませんが、城へ向かう前に会わなければならない者がいます」

○○「会わなければならない人……?」

桜花「ええ、呪術師の紫珠(しじゅ)殿です」

○○「呪術師?」

桜花「四季の国……特に私の一族が治める地域は、古くから呪術師の力を借りて全てのことを行っていました。 政、病気の治癒、時に神霊の力を利用して天地の現象を操り…。 まさに、呪術師によって国の平和が守られていると言っても、過言ではないのです」

(すごい……)

○○「そのような方にご紹介いただけて光栄です」

桜花「ええ……」

すると、桜花さんの表情に、突然かげりが見える。

(桜花さん……?)

桜花「……紫珠殿と会う前に、一つだけ注意していただきたいことがあります」

秘め事のように、桜花さんは声をひそめる。

桜花「紫珠殿を決して怒らせないでください」

桜花さんの深刻そうな表情が、私の鼓動を速める。

○○「なぜですか?」

桜花「彼女は……とても、気高い人間なので……」

桜花さんは、言葉を選んでいるように言い淀んだ…―。

桜花「……あなたならば大丈夫かとは思いますが、念のため。申し訳ありません」

○○「いえ、わかりました」

(気難しい方なのかな……?少し、緊張する)

不安の気持ちを抱えつつ、森の奥へと歩み始めた桜花さんの背中を、私は追いかけた…―。

……

森の奥には、小さな神殿が建てられていた。

桜花「紫珠殿、いらっしゃいますでしょうか?」

その小屋に向かって、桜花さんが声をかける。

すると、奥から長身のすらりとした女性が現れた。

(なんて美しい人……)

紫の着物をまとい、黒い髪を一つに束ねて肩から垂らしている。

着物の色と同じ紫の瞳は、見る者を惹きつける妖艶さをたたえていた。

桜花「こちらは、私を助けてくださった○○さんです」

○○「は、はじめまして」

私は頭を深く下げて、挨拶をした。

紫珠「そんなに堅苦しくなさる必要はありませんよ。顔を上げてください」

紫珠さんは、柔らかい笑みを私に向けてくる。

紫珠「可愛いお嬢さんですね。どうぞ、楽しんでいってください」

○○「あ、ありがとうございます」

(気難しい方なのかなって思ったけど……)

紫珠「……」

紫珠さんが、桜花さんをじっと見つめている。

紫珠「ふふふ、桜花殿。くれぐれも過ちのないよう……お命は大事になさいませ」

(命……どういうこと?)

桜花「……」

桜花さんは返事の代わりに、笑顔で返す。

けれどその笑顔は、無理に作ったもののように思えた…―。

……

紫珠さんの住処を離れ、私達は城へと向かった。

○○「紫珠さんがお優しい方で安心しました」

桜花「……はい」

私がそう言うと、桜花さんは長いまつ毛を伏せて黙り込んでしまう。

(桜花さん?どうしたんだろう……)

○○「桜花さん……どうしたんですか?」

ためらいながらも、そう尋ねると……

桜花「ああ、すみません。少し考え事をしてしまいました」

桜花さんはハッとした表情を見せた後、ぎこちなく微笑んだ。

○○「い、いえ……」

(……聞いてみようかな)

○○「あの、桜花さん。紫珠さんと何かあったのですか?」

思いきってそう聞いてみると…―。

桜花「……何も?」

その声色には、何も聞くなというはっきりとした拒絶の意思が感じられた。

桜の花びらが静かに舞い落ちていく。辺りを沈黙が支配していた…―。

 

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