四季の国・蓬莱、陽の月…―。
地にも空にも、うららかな春の光が降り注いでいる。
爽やかな風が吹き、私の頬を撫でていく。
(暖かくて、心地よい)
その時…―。
(雨……?)
突然、空から水滴が一粒、二粒……とこぼれ落ちてきた。
私は桜の木の下へ急ぎ、雨宿りすることにした。
(花びらが……)
ふと、私の目の前を薄紅色の花弁が舞い落ちる。
(雨で散ってしまわないといいけど……)
そう思いながらも、その優雅な光景に、私はつい見とれてしまった。
…
……
その美しさに時間を忘れて眺めてしまっていて、いつの間にか雨が止んでいたことにも気づいていなかった。
(行かなきゃ)
再び歩みを進めようとした時、前方に人影が見えた。
○○「桜花さん!」
花弁が舞う中、桜花さんは手に二本、和傘を持って静かにたたずんでいた。
女性と見間違えるほどに、佳麗な顔立ち……舞い散る桜を背に、柔和な表情で微笑む桜花さんは、息を呑むほどに美しかった。
桜花「これは必要なかったですね」
○○「も、もしかして……迎えに来てくださったのですか?」
(わざわざ来てくださるなんて)
恐縮している私に向かい、桜花さんはくすりと上品に笑う。
桜花「これくらい、どうということはありません。だって…。 あなたも眠りからこの世へ、私を迎えに来てくださったじゃないですか」
桜花さんの優しい微笑みを見ると、心に春のような暖かさが広がっていった…―。