窓の外では、変わらず桜の花びらがはらはらと静かに散っていた。
桜花「父上とお話しているところを見かけました……呪いのことを?」
優しく問いかける彼に、私は頷いた。
○○「……桜花さんは、恋をしていらっしゃるんですね」
すると桜花さんが、くすりと上品に笑う。
桜花「まさか、お気づきではないのですか? ……あなたに、恋をしていることを」
(え……)
そっと、桜花さんが私の頬に手を伸ばす。
(私に……?)
彼の美しい瞳に、声に、耳まで朱に染まってしまう。
でも、その指先が私に触れることは、なかった。
桜花「なんて悲しい呪いなのでしょうね。 触れれば触れるほど、好きになる。好きになればなるほど、死が近づく……」
優雅な笑みを消し、彼は深く、苦しそうに息を吐く。
桜花「呪いをかけたのは、紫珠殿です。父上の、恋人でした」
(やっぱり……)
桜花「あなたに出会ってから、紫珠殿の元に何度も足を運びました。 しかし、どうあっても呪いを解く気はないそうです」
○○「……」
国王様を愛する気持ちが、激しい憎悪へと変化した……
桜花「国のことを考えると、私は死ぬ訳にはいきません。だから、忘れようとして……」
桜花さんが切なげに微笑み、私を見つめる。
美しい彼の瞳が、夕陽に照らされて幻想的な色をたたえる。
桜花「でも、恋をしないなど……無理なのですね」
○○「……!」
桜花さんはふらりと体制を崩し、床に倒れ込みそうになった。
○○「桜花さん……っ!」
とっさに桜花さんの体を支えてしまう。
(いけない……!!)
慌てて傍を離れようとするけれど、桜花さんは私の服の袖をぎゅっと掴んで、離さない。
桜花「……大丈夫です」
その不思議な心地よさに、彼の温もりに……
私もはっきりと、自分が彼の傍にいることを望んでいることを痛感する。
(桜花さんの傍にいたい。でも、このままでは、駄目だ……)
やり場のない思いが胸を締めつけ、私は唇を噛みしめた…-。