第5話 姫としての価値

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アポロ「おかげで、良いことを思いついた」

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それから…ー。

彼に強引に連れられて、向かった先は…

アポロ王子の領から遠く離れた、彼のお父様が住んでいらっしゃるという王宮だった。

(道中、すごく念も押されたし…どういうつもりなんだろう)

アポロ「いいな、貴様は俺が何を言っても、隣で黙っていろ。 返事は、はいだけだ。その他の返事はすべて、笑みで済ませろ。 それから、俺のことはアポロ王子ではなく、アポロと呼べ。わかったな?」

こうして道中の様子を思い出すと、ますます不安が込み上げてくる。

しばらく待たされていると、広間の入り口から、荘厳な装いの男性が供を引き連れ入ってきた。

(あの方が、アポロ王子のお父様かな?)

国王「久しぶりだな、アポロ」

にこりともせずに、お父様…フレアルージュの国王様は、アポロを一瞥して言った。

アポロ「ああ。今日は報らせがあって来た」

国王「報らせ…?」

ニッと、アポロ王子の口角が不適に上がる。

アポロ「この、トロイメアの姫君と婚約した」

○○「っ…!?」

驚きに目を見開きアポロ王子を見ると、鋭く睨みつけられた。

(そ、そうだった、なんでもないふりをしないと…で、でも婚約だなんて!)

国王「…それは、まことか」

アポロ「ああ、婚礼の儀が決まれば、また知らせる」

○○「あ…」

それだけを言うと、アポロ王子は広間から出て行ってしまう。

私は、慌てて一礼し、彼の後を追いかけた…ー。

○○「待ってください!アポロ王子…ー」

呼び止めても、彼はその歩みを止めることはない。

○○「…アポロ!」

王宮へ向かう道すがら教えられたように、呼び捨てにすると、やっと不機嫌な顔が向けられた。

アポロ「…なんだ」

○○「さっきの話です。どうして嘘なんか…」

アポロ「これから結婚すれば嘘にはならない。これでいいか」

○○「よくないです。だって、そんな突然…ー」

アポロ「トロイメアの姫を我が手に抱き込んだとあらば、必ずあいつらは焦って何か企てる。 貴様には、それだけの価値があるということだ。喜べ」

○○「…喜べません」

アポロ「なぜだ」

アポロの声色は、問いかけというよりも詰問に近く感じられた。

アポロ「とにかく俺の言う通りに動けば間違いない。これ以上、ご託を並べるな」

○○「アポロだって、私のことが好きなわけじゃないのに…」

アポロ「…感情なんて必要ない。貴様は俺のために働け。それだけだ」

○○「そんな、勝手な…ー! …っ!!」

反論しようとすると、手首を強い力で掴まれて、

あっという間に背を壁に押し当てられる。

アポロ「黙って俺に従え…!すべてはこの国のためだ。 国を導くため必要なものは、強い力なのだからな」

言い捨てるように言うと、アポロは私を解放して、また大股で歩き始めた。

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兵士2「何て、横暴な……」

兵士3「恐ろしい…このままだと、いつか俺も…」

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街の人1「…!」

街の人2「ア、アポロ様」

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(強い力が、国を導く…)

(本当に、そうなのかな…?)

私は一人、痛む胸を抑えながらその場に立ち尽くしていた…ー。

……

その数日後…ー。

アポロはどこにも属していない自治領への遠征を、突然お父様に命じられた。

(アポロはお父様やお兄様の計略だと言っていたけど…)

多くの兵を引き連れ出立する姿に、どうしようもなく不安が押し寄せる。

フレアルージュを照らす燃えるような太陽は、今日はその姿を隠していた…ー。

 

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