街中で私を助け、騒ぎを鎮めてくれたアポロ王子が、急に苦しみだしてしまい…
私はそのまま、彼と一緒にフレアルージュの城へと戻ることになった…ー。
アポロ「う…」
従者の前では、決して苦しんでいる素振りなどを見せなかったアポロ王子は、
自室に戻りベッドに横になると、苦しげな呼吸を繰り返していた。
○○「あの、汗を拭きますね…」
額に浮かんだ汗を、そっとぬぐうと
アポロ「……」
アポロ王子の熱を帯びた手が、私の手に重ねられた
アポロ「そう…案じるな。その必要はない」
○○「でも…とても苦しそうです」
すると…
アポロ「……」
アポロ王子に握られた私の手が、そのまま彼の胸へと誘われる。
(え…ー)
汗ばんだ逞しい体は、どくんどくんと脈打っていた。
彼の強い鼓動に共鳴するように、私の鼓動も高鳴り始める。
(アポロ王子…?)
その時…ー。
(これ…刺青?)
胸元に浮かぶ、美しく猛々しい模様に、引き寄せられるように視線が奪われた。
(太陽と…獅子…?)
彼の胸には、燃えるような太陽と、獰猛に吠える獅子が一つに描かれた刺青が刻印されていた。
(熱い…)
同じ肌なのに、その刺青の部分だけが焼け付くような熱を宿している。
アポロ「…最近、苛立つことがやけに多くてな…あの力を使ってしまうと、この胸が痛む」
○○「あの力って…」
アポロ「炎を生み出す力のことだ…制御が、かかっているがな。 父と兄達によって俺の心臓に打ち込まれた、楔のせいで…」
○○「…くさび?」
幾分楽になり始めたのか、アポロ王子の呼吸がゆっくりと落ち着いてきた。
アポロ「ああ。そのおかげで、力を使えば使うほど…心臓が苦しくなる」
アポロ王子が、忌々しそうに目を細める
○○「そんなことって…」
アポロ「ないと思うか?まあ、貴様程度にわかるはずもないがな」
静まりつつある苦しさを、最後整えているかのような呼吸…
アポロ「父も兄も恐れているのだ。俺が、この国のすべてを支配してしまうことを」
○○「そんな…ー」
アポロ「そうでなければ、こんな田舎の片隅に俺を追いやるはずがないだろう」
○○「悲しいです…家族から、恐れられるなんて…」
アポロ「悲しいものか。俺は、それだけの人間なのだ。 この楔さえなければ、俺は情けない父や兄達を排除し、全領土を統べる王となれる。 いや、楔があったとて…俺が必ずあいつらを排除する。 フレアルージュの王は、この俺だ」
○○「っ……」
鋭い眼差しが、何かを射止めたかのようにぎらりと光る。
背筋が凍りつくような恐ろしさを秘めた瞳に、体が震えた…
アポロ「その上で貴様、何かに使えるかもしれん…」
○○「え…?」
その瞬間…ー。
○○「っ…!!」
ぐらりと体が揺れたかと思えば…気がつくと、アポロ王子の下に組み敷かれていた。
○○「アポロ王子…!?」
アポロ「トロイメアの姫。答えよ。 俺を目覚めさせたその力はなんだ。 生まれて初めて…俺は他人の救いを受けたのだ」
端正な顔立ちに鋭く光る眼光が、アポロ王子の炎と同じく…燃えているように見える。
アポロ「貴様は、父達と同じく俺を恐れ陥れるのか…それとも、俺を救うのか…」
不遜な表情に、妖艶さが見え隠れする…
○○「……」
その眼差しに射止められ、私は息をすることさえ忘れてしまう。
アポロ「答えぬか…ならば」
○○「っ…!」
アポロ王子の顔が、ぐっと近づいてくる。
驚きに抵抗しようとしても、強い力で縫い止められた手首は、ぴくりともしない。
アポロ「貴様の顔は割と気に入っている。 それと、俺をまっすぐに見る時の貴様の瞳…」
○○「は、離してください…!」
アポロ「そう、その瞳だ」
アポロ王子が喉の奥で、愉しげな笑い声を立てる
アポロ「どうした?早く答えろ…そうすれば貴様を、解放してやる」
近づいてきた唇が、すうっと頬をかすめ…耳元で囁きを吹き込む。
○○「…っ」
ぞくりと…恐怖ではない感覚が、背筋を這い上がった。
その感覚に、きつく瞳を閉じると……
突然、ふわりと体の上が軽くなった
アポロ「からかってやれば、面白い女だ」
○○「…!?」
私を解放したアポロ王子が、満足そうに笑みを浮かべている。
(からかったって…!)
アポロ「おかげで、良いことを思いついた」
私の気持ちなど気にする様子もなく、アポロ王子は一人何か思い立ったようだった…ー。