第4話 心臓の楔

街中で私を助け、騒ぎを鎮めてくれたアポロ王子が、急に苦しみだしてしまい…

私はそのまま、彼と一緒にフレアルージュの城へと戻ることになった…ー。

アポロ「う…」

従者の前では、決して苦しんでいる素振りなどを見せなかったアポロ王子は、

自室に戻りベッドに横になると、苦しげな呼吸を繰り返していた。

○○「あの、汗を拭きますね…」

額に浮かんだ汗を、そっとぬぐうと

アポロ「……」

アポロ王子の熱を帯びた手が、私の手に重ねられた

アポロ「そう…案じるな。その必要はない」

○○「でも…とても苦しそうです」

すると…

アポロ「……」

アポロ王子に握られた私の手が、そのまま彼の胸へと誘われる。

(え…ー)

汗ばんだ逞しい体は、どくんどくんと脈打っていた。

彼の強い鼓動に共鳴するように、私の鼓動も高鳴り始める。

(アポロ王子…?)

その時…ー。

(これ…刺青?)

胸元に浮かぶ、美しく猛々しい模様に、引き寄せられるように視線が奪われた。

(太陽と…獅子…?)

彼の胸には、燃えるような太陽と、獰猛に吠える獅子が一つに描かれた刺青が刻印されていた。

(熱い…)

同じ肌なのに、その刺青の部分だけが焼け付くような熱を宿している。

アポロ「…最近、苛立つことがやけに多くてな…あの力を使ってしまうと、この胸が痛む」

○○「あの力って…」

アポロ「炎を生み出す力のことだ…制御が、かかっているがな。 父と兄達によって俺の心臓に打ち込まれた、楔のせいで…」

○○「…くさび?」

幾分楽になり始めたのか、アポロ王子の呼吸がゆっくりと落ち着いてきた。

アポロ「ああ。そのおかげで、力を使えば使うほど…心臓が苦しくなる」

アポロ王子が、忌々しそうに目を細める

○○「そんなことって…」

アポロ「ないと思うか?まあ、貴様程度にわかるはずもないがな」

静まりつつある苦しさを、最後整えているかのような呼吸…

アポロ「父も兄も恐れているのだ。俺が、この国のすべてを支配してしまうことを」

○○「そんな…ー」

アポロ「そうでなければ、こんな田舎の片隅に俺を追いやるはずがないだろう」

○○「悲しいです…家族から、恐れられるなんて…」

アポロ「悲しいものか。俺は、それだけの人間なのだ。 この楔さえなければ、俺は情けない父や兄達を排除し、全領土を統べる王となれる。 いや、楔があったとて…俺が必ずあいつらを排除する。 フレアルージュの王は、この俺だ」

○○「っ……」

鋭い眼差しが、何かを射止めたかのようにぎらりと光る。

背筋が凍りつくような恐ろしさを秘めた瞳に、体が震えた…

アポロ「その上で貴様、何かに使えるかもしれん…」

○○「え…?」

その瞬間…ー。

○○「っ…!!」

ぐらりと体が揺れたかと思えば…気がつくと、アポロ王子の下に組み敷かれていた。

○○「アポロ王子…!?」

アポロ「トロイメアの姫。答えよ。 俺を目覚めさせたその力はなんだ。 生まれて初めて…俺は他人の救いを受けたのだ」

端正な顔立ちに鋭く光る眼光が、アポロ王子の炎と同じく…燃えているように見える。

アポロ「貴様は、父達と同じく俺を恐れ陥れるのか…それとも、俺を救うのか…」

不遜な表情に、妖艶さが見え隠れする…

○○「……」

その眼差しに射止められ、私は息をすることさえ忘れてしまう。

アポロ「答えぬか…ならば」

○○「っ…!」

アポロ王子の顔が、ぐっと近づいてくる。

驚きに抵抗しようとしても、強い力で縫い止められた手首は、ぴくりともしない。

アポロ「貴様の顔は割と気に入っている。 それと、俺をまっすぐに見る時の貴様の瞳…」

○○「は、離してください…!」

アポロ「そう、その瞳だ」

アポロ王子が喉の奥で、愉しげな笑い声を立てる

アポロ「どうした?早く答えろ…そうすれば貴様を、解放してやる」

近づいてきた唇が、すうっと頬をかすめ…耳元で囁きを吹き込む。

○○「…っ」

ぞくりと…恐怖ではない感覚が、背筋を這い上がった。

その感覚に、きつく瞳を閉じると……

突然、ふわりと体の上が軽くなった

アポロ「からかってやれば、面白い女だ」

○○「…!?」

私を解放したアポロ王子が、満足そうに笑みを浮かべている。

(からかったって…!)

アポロ「おかげで、良いことを思いついた」

私の気持ちなど気にする様子もなく、アポロ王子は一人何か思い立ったようだった…ー。

 

 

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