アポロ王子の城に、一晩滞在した翌日…ー。
私は、フレアルージュの街を一人歩いて帰っていた。
ーーーーーー
アポロ「…本当に苛々させる女だ」
アポロ「今後、二度と俺の視界に入るな。
明日、早々に帰ることを命じる」
ーーーーーー
(怖かったけれど…あの威厳のある立ち振る舞いが忘れられない)
(王族として、か…幻滅されちゃったな…)
深くため息を吐いて、歩みを進めていると…
兵士1「おいおい、俺達は軍人だぞ?わかってんのかあ!?」
子ども「ごっ、ごめんなさい…っごめんなさい!」
兵士2「俺達の前を走り抜けるとは、度胸のあるガキじゃねえか」
兵士と思われる数名の男性達が、幼い男の子を取り囲んでいた。
街の人1「おい、あれ…」
街の人2「やめろ!あいつら、多分ダイア様の兵士だ…下手に関われば、殺されるぞ!」
周りの街の人達も、怯えた様子で誰もその場を動こうとしない。
(いけない…!)
○○「やめてください…!」
とっさに体が動いて、私は少年と兵士の間に立ち塞がった。
兵士1「なんだー?威勢のいい娘じゃねえか。あ?」
兵士が剣を引き抜き、脅すように切っ先を私の胸元にあてる。
(どうしよう、怖い…でも)
唇を引き結ぶ私を見て、男達が面白そうに笑う。
兵士「いい度胸じゃねえか」
胸元に突きつけられた刃がゆっくりと動き、今度は首筋にあてられる。
○○「…っ!」
ぞくりとする感覚に、たまらずに目を閉じかけた時…ー。
眼前で剣を弾く鋭い音が響いた。
(え…?)
まばゆい太陽の光に、黄金色の髪が煌めく…ー。
アポロ「…何をしている」
私の目の前には、大剣を手に、悠然と立ち塞がるアポロ王子の背中があった。
背後からでも、ぴりぴりと体を震わせるような怒りが伝わってくる。
○○「アポロ王子…!」
思わず名前を呼ぶと、アポロ王子はちらりとこちらを振り返り、強い視線を向けた。
アポロ「おとなしくしていろ」
ただ一言、そう言ってくれてから、すぐにその視線は、目の前の兵士達に向けられた。
兵士1「ア…アポロ王子…」
アポロ「貴様ら、あいつらの手の者か?」
(あいつら…?)
アポロ王子を前にした兵士達は、蛇に睨まれた蛙のように縮こまってしまっている。
アポロ「…良い。答えぬなら、始末するまでだ」
素早く剣を収めたかと思ったら、
ゆらりとまた、アポロ王子の体が熱を宿していく。
兵士2「ひいっ!こ、殺されるっ、殺されるぞ…!」
兵士1「こ、これが…例の力…」
○○「アポロ王子…!」
子ども「ひっ…」
街の観衆も、子どもも…
アポロ王子が生む猛炎に、怯え戸惑っている。
○○「アポロ王子っ…」
とっさに、アポロ王子の腕にしがみついてしまうと…
アポロ「…何をする。離せ」
○○「駄目です。やめてください…。 皆が…街の人や、子どもも見ています…!」
必死で訴えかけると…
アポロ「……」
すうっと、アポロ王子の体から熱が引いていった。
兵士1「い、今のうちに逃げろっ!」
兵士2「…っ!」
兵士達がその隙に、転がるようにして逃げていく。
アポロ王子はその姿を、まるで汚いものでも見ているかのような目で、見つめていた。
アポロ「…阿呆か。あの者も、貴様も」
吐き捨てるようにそう言って、アポロ王子が周りを見渡す。
街の人1「…!」
街の人2「ア、アポロ様…」
街の人々は、アポロ王子のことを怯えきった表情で見つめていた。
(どうして…)
アポロ「……」
その時…。
子ども「…アポロ王子様、ありがとう」
おずおずと、助けられた子どもがアポロ王子に声をかけた
アポロ「王が民を守るのは、当たり前だろう」
厳しい表情のまま紡がれたその言葉には、確かな強さが宿っている。
子ども「…はい!とっても強くてかっこよかったです!!」
尊敬の眼差しを浮かべる子どもを見て、アポロ王子は微かに笑みを浮かべた。
かと思ったら…ー。
アポロ「おい」
○○「っ…」
射抜くような視線が、こちらに向けられる。
(ど、どうしよう。勝手なことしちゃったから…)
アポロ「……」
彼の精強な眼差しに見つめられると、体がなぜだか熱を持っていく。
○○「……」
耐え切れずに、うつむいてしまうと…
アポロ「俺の民を救おうとしたことは、評価に値する」
○○「え…ー」
思いがけない言葉に、私は顔を上げた。
すると…ー。
アポロ「しかし、男二人相手にその無謀さは…阿呆を通り越して、ど阿呆なのか?」
初めて…緋色の瞳が、優しさを湛えた気がした。
○○「アポロ王子…」
アポロ「しかし貴様…。 …っ!」
○○「アポロ王子っ?!」
話をしていたアポロ王子が突然、胸元を押さえて地面に膝をついた。
慌ててアポロ王子を支えようとすると…
アポロ「俺に構うな…っ!!」
ぴしゃりと、手をはね除けられてしまった。
○○「ア、アポロ王子、でも…」
アポロ王子の顔は、苦しそうに歪み青白くなっている。
(どうしたの?急に具合が…?)
アポロ「民の前だ…ぐだぐだ騒ぐなと言っている。 城へ…城へ戻るぞ。貴様も一緒に来い」
○○「え…?は、はい」
支えになればと思って差し出した手は、やはりはね除けられてしまった
けれど…
それでも、凛として歩みを進めるアポロ王子と一緒に、城へと戻ったのだった…ー。