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アポロ「民のために戦う。そうすべき時だ」
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アポロの瞳に宿る炎が、決意に燃え上がる…ー。
城の奪還と、民を守るために、アポロがまず考えたことは…
街の人々で私兵を組み、城へ乗り込むことだった。
アポロ「俺を信じろ。貴様等はただ剣を持ち盾を構え、攻撃体勢に入っているふりをすればいい。 今回組む私兵は、言わばただの、威嚇だ。数を持ってして敵の目をくらます。 戦うのは俺一人で充分だ…体調も、すっかり回復した」
私も無理を言い、私兵の中へまぎれ込んでいる。
ただ待つだけなのは嫌だと言った私に、アポロは最初決して首を縦に振らなかったけど…
(最後には、笑ってくれたよね)
(俺は、強い女が好きだからなって言って…)
街で過ごした数々の思い出が走馬灯のようによみがえる。
そして、今…ー。
アポロ「乗り込むぞ!!!」
私兵「おーーー!!!!!」
私兵「おーーー!!!」
アポロが出陣のかけ声を上げた瞬間に、立ち上る火柱のような炎が彼から昇り立つ。
城を焼き尽くしてしまいそうなその赤は、けれども城も人も焼くことなく、美しくそこにそびえ立った。
アポロ「○○。決して俺から離れるな!」
○○「はい…!」
ごうごうと燃えさかる炎に守られるように、私達は城の奥へ進んだ。
兵士1「だっ、誰かっ、どうにかしろっ!!」
兵士2「だ…駄目だ!この炎のうえに、敵の数も多いぞ!!」
アポロに守られている街の人達は、炎の間からその姿を敵兵に見せつけているようだった。
アポロ「…上出来だ」
アポロが街の人達と笑い合う。
兵士3「た、助けてくれー!!」
立ち向かう城の兵士達は皆、巨大な炎を前に手も足も出せず右往左往する。
炎が、竜が吐き出す火のごとく暴れ狂い、その場を混乱の渦へと導いた。
(すごい…こんなにすごいなんて…!でも…)
アポロの顔を見上げると、顔色が先ほどよりも悪くなっている。
○○「痛みますか…?」
思わず、そっと彼の胸に手をあてると、大きくて熱い手が重ねられた。
アポロ「大丈夫だ…奥へ進む」
○○「はい…!」
アポロに守られるようにして、向かったその先は、大広間だった。
大広間には、アポロのお父様とお兄様がいた。
国王「…まだそのように力が残っていたとはな」
ダイア「本当に…ここ最近の遠征や、やたらめったら力を使うせいで弱っているかと思ったのにねえ」
アポロ「覚悟はできているのだろうな」
アポロを包む熱い炎が、生き物のように大きく膨れ上がる。
国王「いいのか?お前の心臓の楔を抜けるのは、私だけだ」
アポロ「…」
ダイア「そうそう、お父様がいないと、アポロはいつか力に蝕まれて死んでしまうかも…ー。 …っ!?」
アポロが放った、豪炎が二人に襲いかかる。
国王「ア…アポロ…っ!!」
ダイア「お前、家族を…!」
アポロ「民の…この国の未来に害となるものは、すべてこの俺が排除する。 たとえそれが実の父や兄であろうともだ…!」
迷いのない言葉と共に、炎が二人を飲み込んでいく。
アポロ「…っ」
苦しげに胸を抑えるアポロに寄り添うと、彼の手のひらに視線を覆われた。
アポロ「見るな」
○○「…っ」
ただ、炎がごうごうと燃える音が聞こえてくる。
やがて音と共に、場の熱気が収まっていくと…
私兵「ア、アポロ様…」
私兵「アポロ様…万歳!!」
私兵「アポロ様!!!」
私兵達が、アポロに駆け寄ってくる。
アポロは、ふっと力なく微笑み、それから…
○○「アポロ…!」
倒れゆくアポロを支え、その重みに私も一緒に床にくずれる。
○○「しっかりしてください…!」
アポロ「っ…」
必死で呼びかけると、アポロは辛そうな顔で薄く目を開いた。
アポロ「不本意、だ…このように不恰好な王など…」
○○「そんなこと、絶対にありません…」
(家族より…自分の体より、アポロは皆を大事に思って守ろうとしたんだから…)
アポロ「泣くな、○○。それでは俺が死んでしまうようだ」
○○「…はい。この国には、アポロが必要ですから…生きてください」
アポロ「ああ…言われずとも…」
不遜な笑みを弱々しく作った後、アポロはそっと瞳を閉じた…ー。
…
……
それから数週間後…ー。
この街の人々を救った、英雄であるアポロの凱旋パレードが行われることになった。
けれど…
国民「アポロ様!アポロ様ーっ!!」
国民「○○様ーっ!!!」
街の人々の歓喜の中、凱旋を行ったのはアポロだけではなくて
○○「ど、どうして私も一緒に…」
アポロ「民が望んだことだ。応えねばならんだろう。 それにまあ、丁度良いではないか。婚礼の前祝いともなる」
○○「えっ…!」
驚いてアポロの顔を見上げると、少し意地の悪い笑みを浮かべている。
するりと私の腰に手を回し、ぐっと体を抱き寄せた。
○○「あ、あの…」
(恥ずかしい…!)
アポロ「いちいち動じるな。おどおどするな。フレアルージュの王妃となる者が」
気づくとうつむいてしまっていた顔を拳で顎を持ち上げられ、視線を合わせられる。
アポロ「俺の隣へ立つに、ふさわしい女となれ」
輝く瞳は、以前の猛々しさを残したまま、より強く瞬いた。
跳ねる鼓動を鎮めることができず、上手く言葉がでてこない…
アポロ「…胸の楔が抜けることはこれからもないが。 力を使わずとも、お前と民と、国の未来を作っていけるだろう。 ○○。お前が、俺の唯一の家族となれ。 愛している」
○○「…アポロ…」
アポロ「返事は」
○○「はい…」
私の肩を抱くアポロの手の力が、ぐっと強くなる。
その横顔は清々しく、そして強く美しく…
これからの道を照らす、太陽の輝きのようにまばゆかった…ー。